第1章「夢叶う日」 第3話「第二回転生、また地獄」
真っ白な空間。
空気は静かで、時間も止まったような静寂があった。
そこに、またもや帰ってきてしまった男がひとり。
相田剛、50歳。会社員。異世界転生志望。所要時間9.4秒で即死。
「おかえりなさい!」
神様・ヴァロスが、何やら微妙な笑みを浮かべて手を振る。
その顔には、どこか“事故の実況を見てる視聴者”のような、同情半分・笑い半分の温度感がにじんでいた。
「おや……ランダムで“火耐性+1”が付与されましたね! これは良い流れ!」
「ちょっと待て今なんつった!!?」
剛が叫ぶ。
「“火耐性+1”って言ったか!? まさかあれで得られたのはそれだけ!? ドラゴンの尻尾で粉々にされたんだぞ俺は!」
「正確には、尻尾による衝撃で岩壁に激突し、そのあと溶岩で軽く炙られてから死亡、ですね」
「炙られてんのかよ!!」
剛は頭を抱える。だが神様はまるで気にした風もなく、涼しげに続けた。
「でもこれは大きな進歩です! 今後もし“火属性攻撃”を受けたとき、ちょっとだけ痛みがマシになる可能性があります!」
「そんな“ちょっとだけマシ”のために俺死んだの!? 俺の人生、火耐性の肥やしかよ!!」
「ええ、まさにその通り!」
「即答すんなやああああああああ!!」
剛が全力でブチ切れるも、神様は構わずテンション高く手を叩いた。
「では次の転生に参りましょう! チャンスは無限! いつかあなたは最強に至りますよ!」
「いやちょ、待て! せめて状況説明! 次の世界どんなの!? 落ちるの!? もう落ちるのは嫌だあああああ!!」
「それでは、第二回転生スタートです!!」
「聞けええええええええええ!!!!」
神の声と同時に、またもや剛の身体が白い光に包まれる。
「ちょ、おい! 俺まだ座談会も終わってないし! 火耐性が何に役立つかも聞いてないし!! せめてチュートリアルを!!!」
そんな叫びもむなしく、光はすべてを包み込む。
──ドサァッ!!
次に目を開けたとき、剛は森の中にいた。
「はぁ、はぁ……!? 今度は……着地成功!? 生きてる!? やった……!」
安心したのも束の間。地面がヌルリと動いた。
「え? ヌル?」
周囲の地面に見えていた“それ”は、すべて巨大なスライムの体表だった。
「ちょっ……待て待て待て!! これは地面じゃねえ!! スライムだろおおおおお!!?」
スライムの体がボゴンッと跳ねたかと思うと──
剛は一瞬で飲み込まれた。
「ぎゃああああああああああ!! 呼吸できない!! ぬるぬる無理無理無理ィィィィィ!!!」
中はぬるぬるどころじゃない。ドロドロで熱い! 地獄風呂!
全身に溶解液のような感覚。痛い。痒い。視界がぐるぐる回る。
【ダメージ蓄積中】
【火耐性+1:発動中 → 溶解液に無効】
「ちがうんだよおおおおおお!!! 火じゃない!! これ火じゃない!! 役立ってねえええええ!!」
剛は無念の絶叫をあげながら、第二回転生にして、
巨大スライムの朝食として、あえなく終了した。
──ピロリン。
【あなたは死亡しました】
溶解ダメージにより死亡。
※今回のスキル取得 → 【溶解耐性+1】
◆ ◆ ◆
「おかえりなさい!」
白い空間。神様の笑顔が、前回よりちょっとだけ雑になっていた。
「今度は“溶解耐性+1”ですよ! 剛さん、順調ですね!」
「お前、絶対ちょっと楽しんでるだろ……?」
「まさか! 純粋な観察と興味です!」
「観察て言っちゃってるじゃんか!!!」
──第3話・完──