表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したいおじさん念願の異世界転生するも悲惨だった件  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/146

第三章「仲間と絆」 第1話「ティナと鍛冶屋の剣」 〔後編〕「火に宿ったもの」

夜が明けた。

 朝霧の中に、鍛冶場から立ち上る白い煙が見えた。


 剛とメルは、早朝から鍛冶屋の前で静かに待っていた。

 剛は相変わらず眠そうな顔であくびをしていたが、メルは緊張に爪を噛みそうな勢いだった。


 そして、扉が音を立てて開いた。


「──おまたせ」


 現れたのは、すっかり目の下にクマを作ったティナ。

 だが、その目は燃えていた。まるで一晩中、火を見つめていたかのように。


「打てたのか……?」


「いや、“打てた”というより、“やっと打たせてもらえた”って感じかな」


 彼女は布に包まれた一本の剣を、そっとメルへと差し出す。


「受け取りな。これが──“お前の想い”だ」


 


 布をほどくと、そこには見違えるほど綺麗に仕上げられた剣があった。


 シンプルな造りだが、刃には青銀色の光沢が走り、鍔にはさりげなく“羽根”の模様が彫られている。

 それは、メルがかつて“空のように自由な剣士になりたい”と語っていた、あの夢を象徴していた。


「……これ……これ、私の……」


「剣の芯に、ずっと残ってたんだ。あんたの“最初の気持ち”が。訓練で初めて立てた日、友達と笑った日、叱られて泣いた日──全部がな」


 ティナの声は、どこか震えていた。


「それを感じた時、あたしの手も、ようやく“心を打てた”んだ」


「……ティナさん……」


 


 メルは剣を両手で抱きしめた。

 涙がぽろぽろと零れた。うれしくて、なつかしくて、あたたかくて。


「ありがとうございます……! 一生、大事にします……!」


「うん。壊れたらまた持ってきな。今度はもっといいの、打ってやるから」


 ティナが笑った。あどけない少女のような笑顔だった。


 


◆ ◆ ◆


 


 その日。剛とメルは、ティナと別れて再び旅に出ることになった。


「ま、暇があったらまた来いよ。いつでも剣ぐらい叩いてやる」


「はいっ! 今度はお土産持ってきますね!」


「……おいティナ、俺にも何かあるのか?」


「ん? おっさんにはこれ」


 そう言って、ティナが投げたのは──


「……“転倒記録帳”?」


「昨日一晩、近所の子どもたちに“転倒実演講座”開いてただろ。記念にプレゼントしてきたわ」


「おい誰が“滑りの伝道師”だ!!」


 


 そんな騒がしい別れを経て、再び森へと続く道を進むふたり。

 その背中を、ティナは鍛冶場の屋根から見送っていた。


「……ありがとう。あんたらのおかげで、また火を信じられた」


 そう呟くティナの目に、ほんの一瞬、涙がにじんだ。


 


◆ ◆ ◆


 


 森の中。

 メルが新しい剣を握りしめながら、振り返る。


「剛さん。私、またひとつ夢に近づけた気がします」


「そうか。よかったな」


「剛さんは……何か、夢ありますか?」


「……」


 剛は少しだけ考えて、ぼそりと言った。


「“死なずに、明日を迎えること”。それだけだよ」


「……それって、すごく大事な夢ですね」


 メルがにこりと笑う。


 剛は照れくさそうに鼻をかいてから、前を向いた。


「さて、じゃあその夢、叶えに行くか。まずは無事に昼飯にありつくことからだな」


「了解です、先生!」


「やめろ! “滑りの剣士先生”とか呼ばれたくねぇ!」


 二人の笑い声が、森に溶けていった。


 


──第1話「ティナと鍛冶屋の剣」完──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ