第三章「仲間と絆」 第1話「ティナと鍛冶屋の剣」 〔前編〕「出会いは、鍛冶場の爆音とともに」
旅の途中、剛とメルがたどり着いたのは、山間にある小さな町・クレハン。
地図にも名前すら載っていないほどの辺境だが、ここにはある噂があった。
「“奇跡の鍛冶師”が住んでるって話だよ、剛さん。腕一本で、魔剣すら凌ぐ刃を打つって」
「へぇ。なんかもう、その手の“最強職人”って何人目だろうな……」
すでに“101回目の転生”に到達している剛は、そういった“世界の噂”に関してはやや斜に構えていた。
とはいえ、メルが珍しくわくわくしていたので、寄ってみることにしたのだ。
町の中心に近づくにつれ、空気が金属の熱と油の匂いに染まっていく。
そして――
「どけどけぇえええええぇッ!! 爆ぜるぞこの剣ぉおおおお!!」
鍛冶屋の裏路地から、すごい声が響いてきた。
「え、えっ……爆ぜるって、なにが?」
「たぶん、剣じゃねぇか?」
急いでその方向に駆けつけると、鉄の扉の向こうで火花が飛び散っていた。
すさまじい勢いで打ち込まれる鉄槌。立ち上る蒸気。そして、中央で鉄塊を叩きまくっている少女の姿。
……そう、“少女”だった。
短く刈り込まれた茶髪。小柄な体格。だがその目には一切の迷いがない。
「ラスト一撃いっっっくぞおおおおお!!」
ガァァァァァァァン!!!!!
叩き込まれた瞬間、鉄が震え、空気まで唸った。
剛とメルは唖然とするしかない。
ようやく火花がおさまると、少女が額の汗を拭いながらこちらを振り返る。
「見てた? この一撃に宿った“魂”。……さて、あんたら誰?」
「えっ、は、はい! 私たちは旅の者で……あの、ここに凄腕の鍛冶師がいるって聞いて──」
「そっか。あたしがその鍛冶屋、ティナ・バーゼル。天才にして孤高、火花と鉄の申し子よ!」
「うわぁ……めっちゃ自分で言いきった……」
剛がボソリと呟くと、ティナはむっとした顔をして睨んできた。
「なによその反応、おっさん。文句あるなら自分で剣でも打ってみなさいよ?」
「俺が打ったら“転倒耐性のついた鈍器”しかできなさそうだな……」
「なにそれ意味わかんない!?」
しかしこの“すぐムキになる鍛冶屋少女”との出会いが、
剛とメルの旅に、またひとつ大きな転機をもたらすことになる。
──〔中編へつづく〕




