第二章 第5話:「歩き出す、その一歩だけで」 〔前編〕「盗賊団、ふたたび」
朝焼けの小道を、二人の旅人が歩いていた。
一人は、どこにでもいる中年男――いや、どこにでもはいない“101回目の転生者”・剛。
もう一人は、ドジだけどまっすぐな心を持つ少女騎士見習い・メル。
そして彼らの目的は、ただひとつ。
「静かに、ひっそり、誰にも見つからず生きること(by剛)」
「ねぇ剛さん、今日のお昼ごはん、私が作ってもいいですか?」
「おう。爆発さえしなけりゃなんでもいいぞ」
「むぅ、私だって料理くらいできますー! 前に騎士団の食堂で褒められたんですから!」
「それ、空気読んで褒められてた可能性ない?」
「ひどい! いっそ転倒耐性で滑ってください!」
「それもう7個ついてるから……」
そんなアホなやり取りをしつつ、二人は森の中の細道を進んでいく。
だが、その背後。
木々の影に、鋭い視線がいくつも潜んでいた。
「……いたぞ。あの女騎士と、謎の中年男」
「女の方は王都の“スパイ”疑惑、あの男は噂の“転生者”……両方まとめて連れてけば、懸賞金はうなるぜ」
「へっ、楽な仕事だ。どうせ田舎の旅人だろ。ひと思いにな──」
ごそり、と葉が鳴る。
「……おい、気づかれたか?」
──そのときだった。
「──で、あの時は“泥耐性”が初めて役に立った瞬間だったんだよ。沼に沈んで気絶したけど、死ななかった」
「それ……本当に役に立ってます……?」
剛とメルの他愛もない会話に、盗賊たちはピクリと眉をひそめる。
「な、なんだ? ……あの男、スキルの話してる……?」
「“泥耐性”? ……まさか、あれは……高位型の、毒沼封じ!?」
「スキル読み取りの魔眼使え! 相手のスキル構成を──」
ごそっ。
「あっ、今“盗賊団の皆さん、ごそっごそっ”って音がしたぞ」
剛の声が冷静すぎて、逆に全員が硬直した。
「おい、バレて──」
「メル、伏せろ」
剛は一歩、踏み出して。
──その地面が、ぬるっ、と滑った。
だが彼は、完璧なバランスでピタリと止まった。
見えない段差、湿った葉、そして傾斜。
普通なら盛大に転ぶはずの状況で、剛は転ばなかった。
──転倒耐性+7。
死にスキルの果てに得た奇跡の足運び。
「──よし。そこだな」
剛が指をさすと同時に、背後の茂みから盗賊たちが一斉に飛び出してきた。
「やるしかねぇッ!」
「くたばれぇえええ!!」
「おっさんには興味ねぇ、女を渡せ!!」
「……誰が渡すかッ!」
メルが叫ぶよりも早く、剛が一歩前に出ていた。
その手には武器も、魔法もない。
──ただの、おっさんの構え。
だが盗賊たちは本能的に悟った。
「こいつ……“転生者の中でも異質”だ……!」
「メル。俺は強くない。だけど──」
剛は静かに笑った。
「“転んで覚えた痛み”だけは、山ほど持ってる」
「……!」
次の瞬間、盗賊たちが剛に向かって一斉に飛びかかった。
その続きは──
──〔中編へ続く〕




