第二章 第4話:「噂と誤解と、はじめての仲間」 〔後編〕「静かに暮らしたいのに、歓迎パレードが始まった件」
町の門をくぐった瞬間、花が舞った。
「ようこそ! 転生勇者・剛さまーっ!」
「遠路はるばる、よくぞ我が村へ!」
「神託に記された“百の死を超えし者”とは、あなた様のことに違いありませぬ!」
「神託て誰のだよ!? つか、俺何にも言ってないだろ!?」
剛は頭を抱えた。
噂と誤解は、ついに「信仰」にまで進化していた。
「どうしてこうなった……?」
「……あの、剛さん?」
隣で、メルがそっと袖を引いた。
「……怒ってません?」
「怒ってるっていうか……なんかもう、逆に笑えてきた……」
剛は深々とため息をついたあと、苦笑した。
「でも、助けてやった木の間の少女が、町に来るまでに“弟子です!”とか言い出して、町の連中が“やはり転生勇者は導く者を連れている!”とか解釈して……」
「す、すみません……完全に火に油でした……」
そのあと、宿へ案内されるまでに“勇者剛の歩いた道”を再現した“ミニチュアパレード”が挟まり、
酒場では「生誕101周年祝い」が始まり、
気がつけば、部屋には花束と信仰的な置物が並んでいた。
「……俺、この世界じゃもう静かに暮らせないんじゃないかな……」
「……ですね……」
二人で部屋の隅に正座して、黙祷した。
◆ ◆ ◆
夜。
月明かりが窓から差し込む部屋の中。
剛は床に敷かれた寝具の上でぼんやりと天井を見ていた。
「……なんかさ。あんたといると、ツッコミ疲れするんだよな」
「す、すみません……! でも、すっごく楽しかったです」
メルが布団の中から身を起こす。
「だって、今まで誰かと旅したことなかったから。いつも一人で訓練して、誰にも信じてもらえなくて……」
「……」
「でも、剛さんは最初から“ただのおじさん”って言ってくれた」
「……誉めてんのかそれは?」
メルはくすっと笑って、
「はい。だから、また一緒に旅できたら……うれしいです」
そう言って、顔を伏せた。
剛は、しばらく黙ってから答えた。
「……ま、たまには弟子がいてもいいか」
「ほんとですか!?」
「ただし、“拳聖”とか“転生王”とか、“神託の使い”とか言うなよ。絶対だぞ」
「が、がんばります!」
──こうして、剛にはじめて“仲間”ができた。
少女・メル。ちょっとドジだけど、まっすぐな目をした見習い騎士。
彼女の存在が、剛の中にあった「どうせ誰も信じてくれない」という諦めを、
ほんの少しだけ、溶かしてくれていた。
次の日、二人は町を出発した。
その背中を、見送る子どもたちが叫ぶ。
「がんばってー! 伝説の勇者ー!」
「おっさんなのにすごいー!」
「“転倒神拳”の人だー!」
「どんな称号だよそれ!?」
剛のツッコミが森に響いた。
──第4話・完──




