第1章「夢叶う日」 第2話「第一回転生、終了のお知らせ」
「うわああああああああああああああああ!!!!」
空を落ちる。速い。とにかく速い。
体感速度、時速300キロ超え。風圧で顔の皮がベロベロしそう。
「おいおいおいおい!! 着地場所って選べなかったのかよ神様ァァァァァ!!!!」
相田剛、50歳。念願の異世界転生からわずか7秒。
彼は今、火山地帯の上空からノーパラシュートで直滑降中である。
「ていうか! スキル! スキルどうなったんだよ俺!!」
脳内に、必死に語りかける。
「スキル、発動しろぉおおおおお!! なんでもいいからあああああ!!!」
──ピコン。
【現在のスキル:未確認】
発動条件未満のため、使用不能です。
「いやいやいや!! 発動条件って何!? 俺今死にかけてるよ!? そのものじゃん!?」
怒涛のツッコミもむなしく、地面が迫ってくる。
……と思ったら、地面じゃなかった。
そこにいたのは、でっっっっっかいドラゴンだった。
「お、おい……ちょ、ドラゴンておまっ……」
黒く硬そうな鱗に、鋭い目。
全長20メートル以上。炎の中で寝そべっているその巨体は、空を落ちる剛をまるで蚊か何かのように見上げ──
「……チラ見で済ませた!? 俺のことチラ見で済ませた!?」
次の瞬間だった。
ドゴォォォォォンッ!!!
ドラゴンの巨大な尻尾が、剛を真正面から薙ぎ払った。
「ぶあっ!!!?」
骨が砕ける音がした。いや、砕けるどころか粉だった。
吹き飛ばされた剛の体は、岩壁を三回跳ね、火口の外に飛ばされ、最後に火山の岩場にめり込んだ。
「……」
ピロリン。
【あなたは死亡しました】
「人生(第一回目)終了です」
なお、スキルは今回発動しませんでした。
◆ ◆ ◆
真っ白な空間。
先ほど見た、神様・ヴァロスがふわっと浮いている。
「おかえりなさいませー。早かったですね!」
ヴァロスが満面の笑みで手を振っていた。
その隣には、さっき見た転生パネルがまだ残っている。
「…………」
「いやぁ~、ドラゴンはちょっと想定外だったかもしれませんね!」
「想定外って言ったな今。完全に想定外って言ったな今」
「でも大丈夫! あなたには無限の転生がありますから!」
「いやそういう問題じゃねえんだよ!! 最初の人生、10秒で死んだぞ俺!?」
「正確には9.4秒でした」
「計るな!!!」
こうして、相田剛の異世界転生人生1回目は──
無抵抗のままドラゴンの尻尾でふっとばされて、
あえなく終了した。
──第2話・完──