第二章 第4話「噂と誤解と、はじめての仲間」 〔前編〕「だから違うって言ってんだろうが!!」
朝もやが立ち込める山道を、ぼろいマント姿の中年男が一人、とぼとぼと歩いていた。
彼の名は剛、異世界に転生して101回目──つまり、100回も死んでいる筋金入りのやられ転生者である。
「……なぁにが“転生の拳聖”だ……スライム殴っただけで騒がれて……こちとら“ヌルッと滑って落ちた耐性+1”だぞ……」
ぼやく口調が、だんだん涙声になってきた。
「静かに暮らしたいだけなのに、なにが“魂の盾”だよ……。次の町では絶対に名前も名乗らねぇ……! 農作業オンリーで過ごすんだ……!」
そんな剛の妄想をぶち壊すように、森の奥から叫び声が飛んできた。
「助けてぇぇぇぇぇぇ!! 誰かー!! このままじゃああああ!!」
「……無視しよ」
剛はあえてそっぽを向いた。
「関わったらまた“誰か助けた=勇者”の流れだ、学習した俺……俺偉い……」
──だが、
「ちぎれるぅぅぅ!! ふとももがちぎれるぅぅぅ!!」
という、聞き捨てならない叫びが続いた。
「……ちぎれるはヤバいな」
渋々、声の方へ向かうと、そこにはとんでもない光景があった。
「……お前、どうやったらそんな挟まり方するんだよ」
木と木の間に、中途半端な騎士鎧姿の少女が、ガッチリとはまり込んでいた。
「おじさん!? 通報しないで! 違うんです、怪しい者じゃなくて! でも事情があって逃げてて、気づいたらこんな──あっ腰がッ!!」
「いや通報する気はないけど、とりあえず落ち着け」
「落ち着けって! はさまってるんです私! このままじゃ人生終わる!」
剛はため息をついて、木の幹をぐい、と押した。
「いけるか?」
「いけま……ギャッ! ……けどいけるッ!」
みしっという音とともに、少女がボトリと地面に落ちた。
「いってぇ……は、はぁ……ありがとうございます、おじさん……!」
「だから“おじさん”って言うな。まあおじさんだけど」
剛が助け起こすと、少女は鎧をぱんぱん叩いて自己紹介を始めた。
「わ、わたしメルといいます! 王国騎士団見習いで……地方巡回中に事情があって、盗賊に追われて、それで……えっと、どこから話せばいいですかね?」
「とりあえず落ち着いて深呼吸しろ。あと鎧、脇腹のところ外れてるぞ」
「へ!? わわっ、恥ずかしッ! 直します!!」
「いや別に誰も見てないから落ち着け……」
ぱたぱたと騒ぐメルに、剛は小さく苦笑いを浮かべた。
なにやら騒がしい少女だが、どこか憎めない。
「……で、あんたどこへ行く途中だったんだ?」
「町です! でも途中で迷って、追われて、木に……」
「そっか、じゃあ案内してやるよ。俺も町に行く途中だからな」
「ほんとですか!? ありがとうございます、さすが“転生の拳聖”様!!」
「だからその名前はやめろッ!!」
──〔中編へ続く〕




