第二章 第3話:「スライムの村襲撃と英雄疑惑」 〔後編〕「静かに暮らしたいだけなのに」
宴の翌日、剛はひとり、村はずれの林の中にいた。
「……ああ、静かだ。木漏れ日が優しい……。やっぱり俺には森暮らしが似合う」
村での英雄騒ぎに耐えかね、こっそり脱出してきた剛。
鳥の声、風の音、虫の羽音……まさに癒しの大自然。
「こうして一人、誰とも関わらず……二度と誰にも“勇者”だのなんだの言われない人生を──」
「──剛様ぁぁああああ!! どこですかぁああああ!!」
「……なぜだ」
レト少年の絶叫が森に響いた。
遠くからドタドタと音が近づき、数分後、ゼエハア言いながらレトが現れる。
「師匠! 逃げたらダメです! 王都から勅使が来てます!!」
「……なんでだよ!? 俺、何もしてないだろ!? 本当にスライムを殴っただけだぞ!?」
「だからですよ! 素手で殴って勝ったからですよ! それが問題なんですよ!」
そうして引っ張られるように村に戻ると──
そこには、豪華な馬車と金色の装飾をまとった一団が到着していた。
「勇者・アイダ・ツヨシ殿──」
「名前まで勝手にカッコよくすんな!!」
「我がグレイム王国にて、“魂の盾”としての就任をお願いしたく、陛下直々の勅命にございます」
「聞いてない、怖すぎる、俺ただの草むしりおじさん!!」
村人たちが一斉にひざまずく中、剛だけが困惑と焦燥の極みにいた。
「いやマジで、スライムって……基本、攻撃しなけりゃ向こうも襲ってこないタイプのモンスターだろ!? なんでそれを俺がパンチで倒しただけで“魂の盾”とか言われてんだよ!!」
使者は涼しい顔で言った。
「勇者とは、己の宿命を知らずとも、その行動が歴史を動かすものです」
「それただの事故の言い換えだよね!?」
剛は村の外れで再び天を仰ぐ。
ルナの石探し、スライム討伐、村人の尊敬、そして王国の使者──
静かな人生を夢見ていたはずの彼の足元は、着実に“勇者街道”へと引っ張られていた。
「……こうなったら、もう次の村へ逃げるしかない……」
背後からレトの声が飛ぶ。
「師匠ー! 明日からの訓練メニュー考えました! “対・巨大スライム想定 腕立て5万回”です!!」
「なぁレト……それは修行じゃなくて、拷問だぞ」
──かくして、“転生101回目のおっさん”はまた一歩、望まぬ英雄譚の渦中へ。
彼の願いはただ一つ。
「静かに! 平和に! 誰にも注目されずに生きたい!!」
しかし運命は、彼を決して“そっとしておいてはくれなかった”。
──第3話・完──




