第二章 第2話:「少女ルナと、石ころ事件」 〔後編〕「命がつないだ、石ころの物語」
「……この子は、誰にも渡さねぇ」
そう言って、剛はルナの前に立ちふさがる。
黒いローブの男──影の回収者と呼ばれるその存在は、信じられないという顔をしていた。
「我が術が……効かないだと……!? まさか、貴様……“魂干渉完全耐性”持ちか!」
「いや、たぶん……それ、3つぐらいに分かれて俺に付いてるだけだわ」
「なんだと……?」
「死にまくったら、いろんなもんが付いてくるんだよ……! お前らみたいなヤツに、殺されまくった結果な……!」
男が指を鳴らすと、背後から二体の影が立ち上がる。
獣のような影人形、忌々しい眼をした幽体の獣。
「ならば実力行使だ。子どもごと消し炭にしてやる……!」
その瞬間、剛の全身の細胞が叫んだ。
「これは“絶対死ぬやつ”だ」と。
──だが、今の彼は“死ぬだけの存在”ではなかった。
「スキルリスト、総動員だああああああ!!!」
発動:
・霊魂干渉耐性+1
・呪詛耐性+1
・魔導砲耐性+1(第11回)
・動物噛みつき耐性+1(第12回)
・全方向落下耐性+1(第27〜31回)
・即死耐性+1(第44回)
・貫通耐性+1
・火傷耐性+1
・転倒耐性+1
・耳鳴り耐性+1
・謎解き不正解による落雷耐性+1(第64回)
etc…
黒い獣が跳びかかる──しかし剛の体に触れた瞬間、まるで霧に触れたように掻き消えた。
「なっ……!」
もう一体が叫び声とともに呪波を放つが、剛は無表情で突っ立ったまま。
「……ふぅ。“死なない”って、こういう感じだったんだな……」
これまで自分が積み上げてきた“死の記録”が、まるで一本の盾のように自分を包んでいた。
「おい、小娘を渡せ!」
「断る」
静かな声で、剛は言った。
「俺の101回目の人生は、“誰かと話す”とこから始まったんだ。
奪うだけのお前みたいな奴に、笑顔を消させてたまるかよ」
その瞬間、剛の背後から小さな光が生まれた。
「え……?」
ルナの手の中の“石”が、淡い白い輝きを放っていた。
「……これ……お父さんの声、する……」
ルナが囁いた。
その声に、影の男がうろたえる。
「まさか……魂石が、共鳴している……!?」
「へぇ。じゃあ──」
剛が微笑んだ。
「“魂石+俺の耐性地獄”で、どうなるか試してみっか?」
──次の瞬間、白い閃光が走った。
石から放たれた光は、剛を中心にドーム状に広がり、影の存在たちを一掃していった。
まるで──ルナの想いと、剛の“死に耐えた力”が融合したかのように。
「ぎゃあああああああああああ!!」
ローブの男は断末魔を残して掻き消えた。
◆ ◆ ◆
「……おじちゃん」
静かになった町の裏通り。
剛は地面に膝をつき、ぜぇぜぇと息をしていた。
「……うん……なんか、すごい疲れた……けど……」
ルナがそっと剛の手を握る。
「ありがとう。石も、わたしも、助けてくれて」
剛はぽかんとその手を見つめた。
──誰かの“ありがとう”をもらったのは、何年ぶりだろう。
いや、もしかすると──異世界で、**はじめての“報酬”**かもしれない。
「……いいんだよ。俺、もう死にたくないし、誰にも死んでほしくないんだ」
ルナがにっこり笑った。
「じゃあ、おじちゃん。これ、あげる」
そう言って、白い石──いや、“魂石”を剛の手に握らせた。
「えっ、でもこれは……」
「もう大丈夫。お父さんの声、聞こえたから。
“ありがとう、ルナ。よく頑張った”って。……だから、これはおじちゃんに持っててほしいの」
剛の胸に、何かが灯った気がした。
「……わかった。じゃあこれ、俺の“守る理由”にするよ」
ルナの小さな手が、剛の手から離れた。
──その手の温もりが、
剛の“100回の死”を、生の意味へと変えていった。
──第2話・完──




