第二章:転生しただけでは人生は始まらない 第1話「今度こそ、静かな人生を」
相田剛、51歳。
職業:死にまくった転生者。
転生回数:100回。
スキル:圧倒的なまでに“死ににくい”。
──だが、これまで一度も、生き延びたことはない。
そして今、101回目の転生。
◆ ◆ ◆
朝の光が差し込む、静かな街の一角。
瓦屋根に赤レンガの壁、見慣れない建築様式なのに、どこか懐かしい温もりがあった。
通りにはパン屋の甘い香りと、どこかの子どもがはしゃぐ声。
空は青く、鳥が飛んでいた。風が頬に心地よい。
そして剛は──立っていた。
「……あれ? ……生きてる……?」
転移直後に火を噴かれず、毒にやられず、崖も落ちてこず、なにより何者にも襲われていない。
「おぉおおおおおおおお……!?」
目が潤む。
「俺……! 息してる……! 俺……まだ息してるぞぉぉぉおおおお!!」
叫びながら思わず地面にひれ伏すおっさん。
通りがかりの老婆が眉をひそめた。
「……何あの人……神に祈ってるのかしら……?」
「ちがう、“生きてる”ことに感動してるんですぅぅぅ!!」
剛は涙まみれで見上げた青空に、心の底から誓った。
「俺は……もう冒険しない。戦わない。戦闘なんてノーセンキュー!
静かに……人知れず……誰にも迷惑かけず、地味に暮らしていく……!」
その決意の裏に、過去100回の壮絶な死があった。
だからこそ、剛は選ぶ。
「俺はこの町で、パン屋の皿洗いでもなんでもいい。命があれば、なんでもできるんだ……!」
そして、その時だった。
「……あんた、旅の人かい?」
背後から声がした。
振り向くと、ひとりの少年が立っていた。まだ10歳前後だろうか。茶色の髪に、どこか人懐っこい目。
「え、ああ……ま、まあ……旅っちゃ旅、なのかな」
「おじさん、ちょっと困ってる感じだったから。宿、紹介してあげようか?」
「えっ、ああ、助かる……!」
初めて──この異世界で、生きた状態で誰かと話した。
涙が、止まらなかった。
ただの少年。
ただの親切。
その小さな出会いが、剛にとっては**“奇跡”だった。**
「ありがとう……ありがとう……君、名前は?」
「オレ? レト。レト・カーネルっていうんだ」
その日から。
相田剛の101回目の人生が、ようやく始まった。




