第八章「記録の深淵と、新たな訪問者」 第3話「神の知識と、最初の選択」 〔後編〕「選び取る者の記録」
選ばれた白紙のページが、世界を塗り替える。
無限に積み上がる書架は崩れ去り、剛たちは純白の空間に立っていた。
そこには、彼ら自身の影がいた。
影は「選ばなかった未来」の具現化だった。
転生者連邦を率いた剛。記録の王女ティナ。破壊者リナ=オルタ。
すべての“可能性の亡霊”が、剛たちを睨んでいた。
「これが……俺たちが、選ばなかった姿……?」
影の剛が問う。
「何も選ばないとは、ただ逃げているだけじゃないのか?」
「記録を刻むという言葉に逃げて、本当は何も背負わないつもりなんだろ?」
剛は歯を食いしばる。
「違う……俺は“未完成”だからこそ選びたいんだ。
記録された未来じゃなくて、“いまここにいる仲間”と、生きて決めていきたい」
すると、影のティナが笑う。
「理想ね。でも“理想の中身”を持たない者に、記録は残せない。
あなたは、誰のために記録を残すの?」
「……俺は、ティナやリナや……今、ここにいるみんなのために。
そして、まだ出会ってない誰かのために。
忘れ去られた転生者たち、ここで終わってしまった命のために!」
その声に、影たちは一瞬たじろぐ。
リナ=オルタが続けて言う。
「可能性を否定するのは簡単。
でも剛は、それを“記録する”ことで肯定しようとしてる。
だから私も、それを信じたい。選ぶ価値を」
影たちはついに言葉を失い、溶けるように霧となって消えていく。
そのとき、プロト=ロゴスが現れた。
その姿は今や、明確な“個”を宿していた。
「……選び取ったか、転生者たちよ。
キミたちの記録、ここに正式に刻まれることとなる」
天より降りたるは、金色の記録の筆。
剛がそれを受け取ると、白紙だった未来のページがゆっくりと光を放ち始めた。
「これは……“俺たち自身が書く未来”……!」
筆が動いた瞬間、アーカイブの空間が再構成される。
崩れていた本棚が立ち上がり、封印されていた書物が一冊ずつ開き始める。
それは、剛たちが“神の記録”に干渉した証だった。
もはや彼らは、ただの転生者ではなかった。
**“記録選択者”**として、新たな権限を得た存在。
プロト=ロゴスは深く一礼した。
「あなたたちの記録が、今後、どんな形で綴られていくのか……
それを読む者がいる限り、この記録庫は存在し続けます」
そして、扉が開く。
向こうに広がるのは、未記録の世界。
“まだ誰も知らない物語”が眠る、真のグランアーカイブ深層。
剛は振り返らずに言った。
「行こう。今度は俺たちの番だ。
誰かに記録されるんじゃない、自分で自分の物語を残してやる」
──そして、彼らの旅は次章へと進む。




