第八章「記録の深淵と、新たな訪問者」 第3話「神の知識と、最初の選択」 〔中編〕「運命の記録庫」
プロト=ロゴスが差し出したのは、一冊の黒い書物だった。
装丁にはタイトルも著者名もない。
だが開いた瞬間、剛たちは理解する。
——これは、“未来”の記録だ。
ページに記されていたのは、剛たちが今後迎えるかもしれない幾つもの「可能性」。
そのどれもが、剛たちの魂を強く揺さぶった。
一つ目の未来:
剛は数多の転生者をまとめあげ、“転生者連邦”を築く。
世界は再構築され、記録の秩序は書き換えられる。
だがその代償に、剛は“人間”という記録を失い、神々と同じ“概念”となる。
二つ目の未来:
ティナは記録管理機構を乗っ取り、“記録の王女”となる。
彼女のスキルはすべての記録を編集可能とし、過去も未来も自由に書き換えられる。
しかし、彼女の中の“本当の記録”は徐々に喪われていく。
三つ目の未来:
リナ=オルタは“記録の破壊者”として人類の記憶ごと旧文明を消し去る。
だがその中には、誰も知らなかった“かつて愛した誰か”との記録も含まれていた。
そして四つ目の未来:
何も選ばず、すべてを手放した場合。
剛たちは静かな村で、ただ生きて死ぬ。誰の記憶にも残らないが、争いも苦しみもない。
「最も平穏な選択」。だが、「何も成し得ぬ者たちの記録」として忘却される。
「……何だよ、これ……全部、俺たちの“未来候補”ってことか?」
剛がつぶやくと、プロト=ロゴスが頷く。
「その通り。“神が記した可能性”。
だが、これらはどれも確定ではない。
ここでキミたちが“どの未来を選ぶか”によって、書き換えられていく」
リナ=オルタが眉をひそめる。
「つまり……私たちが“自由に選べる”とでも?」
「否。選択肢は存在するが、“選んだ記録に相応しい在り方”をしなければ、破綻する」
つまり、「力」や「運命」を手に入れるだけでは足りない。
それにふさわしい“在り方”であれというのが、記録世界の法則だった。
ティナが、小さな声で言う。
「剛……どの未来を選ぶ?」
剛は迷う。
選べば、その未来に縛られる気がした。
けれど、選ばなければ、何も始まらない。
彼は、ふと一つのページを指差す。
それは、まだ白紙のページだった。
「俺は……この未来を選ぶよ」
「それは……?」
「“まだ誰にも記録されていない未来”。
選ばれてたまるかよ。俺が、俺の手で選ぶ。
記録の中に、俺たちの“今”を刻むんだ」
プロト=ロゴスは長い沈黙の後、静かに微笑む。
「それが、“神の知識に触れた者”の答えか。ならば、最終の問いに進むがいい。
キミたちの記録が、どれほど確かなものかを——試す」
その瞬間、空間が砕け、最後の“試練”が姿を現す。
──〔後編〕へつづく。




