第1章「夢叶う日」 第10話「第九回転生、満月の夜に吸血鬼と遭遇」
白い空間。
死にまみれの転生おっさん・相田剛(50)は、今、悟りを超えて完全に神にキレていた。
「おい。なあ、ヴァロス。次の死因、どうせもう決まってるんだろ?」
「えっ、な、なにを……! そんなこと……!」
「“ぬめる系”の次は“吸われる系”だって、俺わかってるからな!!」
「……バレましたか」
「バレたとかの問題じゃねぇよ!!!」
神・ヴァロスは若干気まずそうに頭をかいた。
「だって、そろそろ“吸血耐性”も付けないと……異世界って意外と吸血鬼出るんですよ?」
「その“出る”の感覚がもう麻痺してんだよ!こっちはただのサラリーマン上がりなんだぞ!?」
「でも安心してください! 今回は都市部です! 街です! 美しい満月の下、ロマンチックに死ねますよ!」
「ロマンチックに死ぬなや!!!!」
◆ ◆ ◆
次に剛が目を開いたとき、そこは静かな街の路地裏だった。
石畳。月明かり。空気はしんと冷たく、かすかにバラのような香りが漂う。
「……? え? 今回はなんか、普通……?」
辺りには人影もなく、静寂に包まれていた。
「よし、今回はいける。**これは初回会話イベントのフラグだ。**俺もついに物語に入れる……!」
胸を高鳴らせ、路地裏から表通りに出ようとした、そのとき。
「……あら、あなた」
声がした。背後から。
女の声。妙に艶っぽく、しかし冷たい。
「えっ……?」
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
黒いドレス、深紅の瞳、月明かりに浮かぶ蒼白の肌──
「は……はい……?」
「あなた、血の匂いがするわ。たくさん、死んでいる匂い」
「ちょ、ちょっと待ってくださいお嬢さん、それは誤解というか業績というか……」
「一口だけ、味見しても……いいかしら?」
「え、ちょっ、ダメですそれ即死するやつ──」
──ズボッ。
彼女の牙が、剛の首筋に突き立った。
「ぎゃああああああああああ!!!」
全身の血が抜ける。骨の髄まで吸い取られるような感覚。
「せめて名前だけでも……教えて……!!」
「クラウディアよ」
「吸血鬼っぽっっ!!!」
視界が真っ赤に染まり、次の瞬間──意識は暗転した。
──ピロリン。
【あなたは死亡しました】
吸血による全身血液喪失
新スキル獲得 → 【吸血耐性+1】
◆ ◆ ◆
「おかえりなさ──」
「クラウディアって誰だああああああああ!!」
白い空間に帰ってくるなり絶叫した剛。
神・ヴァロスは指を鳴らし、ホワイトボードを出す。
【現在のスキル一覧】
・火耐性+1
・溶解耐性+1
・嚥下耐性+1
・刺突耐性+1
・毒耐性+1
・打撃耐性+1
・転落耐性+1
・泥耐性+1
・吸血耐性+1 ← New!
「おめでとうございます剛さん! もう吸血鬼に一回くらい噛まれても死にませんよ!」
「“一回くらい”がもう怖ぇんだよ!! 二回目来たらどうすんだよ!」
「そのときは“吸血耐性+2”になりますねっ♪」
「俺の命をスキルポイントとしか思ってねえええええええ!!!!!」
──第10話・完──




