第1章「夢叶う日」 第1話「夢叶う日」
――夢って、叶うんだな。
相田剛・五十歳、生まれて初めてそう思った。
「お前には無限の可能性がある!」
神様がそう言ってくれたのだ。真顔で。神々しく。目をキラッキラさせながら。
生前、相田はしがない会社員だった。
長時間労働、昼休み5分、成果はすべて後輩の手柄、怒られるときだけ名前を呼ばれる。
そんな社畜人生の果て、ある日ふと意識を手放した。
そして気がついたら、ここ。真っ白な空間で、髪の長い金ピカの神様と向かい合っていた。
「……つまり俺は、死んだってことですか?」
「そう、過労死です! でも大丈夫! ここからは第二の人生ですよ!」
「異世界、ですか?」
「はい! 剣と魔法と魔物と、ついでにちょっと勇者っぽい展開もある世界です!」
「やった……やった……っ!」
剛の目から涙がこぼれる。
叶った。何十年と夢見てきた“異世界転生”が、今ここに──!
「さあ、では次に、職業を選びましょうか。あなたにふさわしいジョブを!」
神様の背後に、幻想的なホログラムのような画面が浮かぶ。
【ジョブ選択】
・剣士(近接攻撃の花形!)
・魔法使い(万能でかっこいい!)
・召喚士(モフモフを呼べる!)
・特性ランダム(※すべては運次第!)
「……む?」
剛は眉をひそめた。
剣士……かっこいい。魔法使い……ロマンある。召喚士……癒し枠だ。
しかし、その中に明らかに異質な一文がある。
「特性ランダム……?」
「ええ、その名の通り、どんな能力がつくかは完全にランダム! 運命に身をゆだねたい、ちょっとスリルが欲しいタイプの方向けですね!」
「……なるほど。スリル、ね……」
剛は目を閉じ、少しだけ考える。
過労死するほど働いてきた自分に、どれだけの“運”が残っているだろうか?
でも──
(人生一回転んでるなら、次はサイコロで出た目を信じるのも悪くない……)
「神様、俺……ランダムでいきます!」
「……え? え、ほんとに?」
「男には、運を信じなきゃいけない時があるんです!」
「……まあいいでしょう。あなたの覚悟、しかと受け取りました!」
神様が両手を掲げると、剛の体が光に包まれる。
世界がぐにゃりと歪み、全身にふわっとした浮遊感が走る。
「それでは、転生スタートです! 新たな人生を、精一杯楽しんでくださいね~!」
「待って! ジョブの詳細説明は!? あと着地場所とか――」
──と、言い終える前に。
彼の意識は、真っ逆さまに落ちていった。
◆ ◆ ◆
「――って、ちょ、ま、待っ、どこ!? これどこだぁぁああ!!?」
目を開けた瞬間、剛は叫んでいた。
地面は……ない。あるのは空だけ。いや、下を見ると、真っ赤な火山地帯が広がっていた。
「なにこれ!? 地獄!? え!? 空!? 俺空にいる!? 落ちてる!? 死ぬ!? これ死ぬやつじゃん!?」
風が顔に突き刺さる。熱気で鼻が焦げる。
体がどんどん落ちていく。何百メートルもある火山のクレーターに、吸い込まれていく!
「神様あああああああ!! スキルランダムってそういう意味じゃねえええええ!!」
──そして。
剛の転生一発目は、空中即死で幕を開けた。
──第1話・完──