把握
意識が戻ってから、どのくらい経っただろうか。
ずっと薄暗い洞窟の中にいて、時間感覚などというものはとうに失われている。
とはいえ、あれからいろいろと暗中模索して、いくつか分かってきたことがある。
1つ。
ステータスに書いてあったことは、どうやら事実らしいこと。
今の私には肉体がなく、動作の全てが魔力操作で完結している。
一口に魔力操作と言っても、まるで難しいものではなく、念じるだけで簡単に実行出来てしまう。
先程炎を出したのも、この魔力操作に依るものらしい。
ちなみに移動する時は足を動かして歩くのではなく、魔力を操作してふわふわと飛行する。
2つ。
ここはやはりどこかの洞窟の中のようで、そしてなかなかに大きいようだ。
魔力操作の実験も兼ねて、しばらくふらふらと移動してみたが、出口らしきものは一度も見かけなかった。
3つ。
どうやら私が今いるこの世界は、私が元々いた世界とは異なるものらしいということ。
私が元々いた世界には、魔力などというものは存在しなかった。
私は元の世界で死に、肉体はそこで滅んだが、魂だけが世界を渡り、ここにやって来たということなのだろうか。
それと、洞窟の中を住処にしている生き物達だ。
コウモリやヘビ、蜘蛛に似た生き物はまだ良いとして、ぶよぶよとした水の塊のような生物やなんと形容していいかも分からないような得体のしれない物体。
あんなものも、元の世界にはいなかった。
あれは、魔物やモンスターとでも呼ばれるような生物だろうか?
やつらに関して何か説明でも読めればと思ったのだが、どうやらステータス表示は自分のもの以外を開くことは出来ないようだ。
不親切な仕様に文句のひとつも言いたくなるが、まあ見られないのなら仕方がない。
しかしながら、私はこれからどうしていくべきなのだろう。
自分のステータス画面を見直しながらしばらく考える。
レベルや能力という概念があるのなら、もしかしたら成長したりもできるのだろうか?
試してみたくはあるが、いかんせん私はまだレベル1だ。
能力値も低い上に不慣れな身体でいきなり戦ったとしても、勝てる気がしない。
やはりしばらくはこの身体に慣れながら少しずつ試していった方が良いだろう。
気の長い話だが、幸か不幸か私には、時間だけはたくさんあるのだ。