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【短編】「後悔してるんだ」でも、もう遅いのです。私も運命の人を見つけちゃいましたから!

作者: サバゴロ
掲載日:2024/12/23

「たいして強くもない聖女とは、婚約破棄する」

「先王陛下が婚姻を望んだのですが?」

「ハハハ。そなたは聖女もクビだ!」

「え……」

「自分だけが結界を守れると思うな! より強い力を秘めた美少女を見つけたんだ!」

「あら」

「運命の相手に出会った以上、そなたはもう要らぬ!」


 婚約者……ああ、もう元婚約者か。

 元婚約者が騒いだのは神殿。

 私は結界を守るため、八時間おきに祈りを捧げるから。


 寝坊しちゃった、てへ。なんてことは許されない。

 私は規則正しい生活を余儀なくされている。

 つまり。

 交代してくれるなら、とっても、とっても嬉しい!


「諸行無常。盛者必衰と初代も申しておりました。婚約破棄、聖女解雇、喜んでお受けします! ではっ!」


 この神殿を建てたのは曾祖母。

 十三歳の私が聖女になる前は、母が結界を守った。

 現在三十一歳の母が聖女になる前は、祖母が。

 現在四十八歳の祖母が聖女になる前は、曾祖母が。

 曾祖母は御年六十五歳。もちろん元気。


 聖女の力を持つのは常に一人。

 受け継がれるごとに、力は半分に減っている。

 私はたいした力もない、性格も清らかとは言い難い聖女ってわけ。


 ただまぁ、そこまで無責任な性格でもない。

 新しい聖女に仕事の引き継ぎをすることにした。

 家宝のお祈りマニュアルを持って、王宮で新聖女を探す。


「石鹸がないの!? お湯がもう冷めてるけど!?」


 廊下に響く声とともに、お湯を持って走るメイドたちが視界に入る。

 大丈夫かしら。聖女の任務は我慢との闘い。

 お友達と旅行もできないし、人生が辛くても飲み明かすこともできない。

 こんな我儘そうな子に務まるかしら?


「プライベートを覗くとは! 嫉妬でストーカー化しおったな!」

「新聖女にお祈りの方法をお教えしたく……」


 言い終わらないうちに、元婚約者はマニュアルをひったくり、ブレイザーでさっと燃やしてしまった!

 ブレイザーは金属の火鉢ね。移動可能な暖房器具。

 たぶん、我儘新聖女のために、廊下まで暖めている。


「どうせ怠惰王とか、無力王とか、卑屈王とか、悪口を書いてたんだろ?」

「それは一緒に過ごせば、すぐにわかります。私は城下で暮らす民のために……」


 陛下は嫌い。だけど王国を思うからこそ婚約もした。

 私も陛下も、生まれた瞬間から重い責任を背負っている。

 なぜわかりあえなかったのかな。

 胸がとても痛くなる。


「また説教か? 要らん! もう元聖女は国外追放だ!」

「よろしいのですか?」

「新しい聖女は従順だ。ずっと神殿は目障りだったからな!」


 強く従順な聖女を手に入れ、陛下はかつてないほど傲慢になっている。

 特別な力というものは、人を狂わせる。

 力を持つ私自身が一番わかっている。



「陛下! なんて不遜な!」


 小太りで頭部のスッキリした宰相が階段を駆け下りてきた!

 実は、この汗だくの宰相こそが王国を統治している。

 会食やダンスなどの外交は、この若王が。

 貿易や国防の条約を他国と議論し、制定するのは宰相。

 王国の要とも言える。


「うるさい。この世は我が世ぞ!」

「なりません! 陛下!」


 宰相の必死の抵抗も虚しく、私は拘束され罪人用護送馬車に乗せられた。




「なぜ私を殺さないのかしら」

「聖女様を殺すなんて真似は、さすがに陛下も恐ろしいのでしょう」


 私の拘束をほどきながら聖騎士シャナはため息をつく。

 護送する馬車の周りを、すでに頼もしいシャナの部下が取り囲んでいる。


 聖騎士には聖女の護衛ともう一つ重要な任務がある。

 八時間おきに聖女を祈らせること。

 ある時は目覚ましとなり、ある時は私のおやつを取り上げる。

 今も、護送馬車のまま私を神殿に連行する。



 祈った後、私を待っていたのは歴代聖女。

 私と違い、王家と上手くやれていたのだ。

 いたたまれなくなる。でも。


「追放? いいんじゃない? 捨てちゃいましょうよ、こんな国。三代目の王はホントひどい」

「不思議ね。代替わりする度に、王の傲慢さは酷くなるわ」


 母と祖母が、陛下に対しご立腹。

 ちなみに母と祖母は今なお、めちゃくちゃ美人。

 そして、最も神々しいのが曾祖母のよしこ様。

 美貌も力と同様、世代交代で半分に減ってるのではと、私は思う。


「この国は砂漠に私が建国したのにね。でも、もう少し東の砂漠に移動しましょうか」


 よしこ様は微笑む。


「ですが、私は八時間おきに神殿で祈りませんと」

「聖女が祈ることが大切であって、場所はどこでもいいのよ。十日後に神殿が移動すると、国中にお触れをだしましょう」


 すでによしこ様は王国を捨てる気満々。

 あまりに潔くて、ここで生まれ育った私は驚いてしまう。


「民はついてくるでしょうか?」

「望む人だけでいいの。畑や水路を一から作るのは大変でしょう? いつまで豊穣の力があるかもわからないし」

「確かに。あと何代もつか」

「王国は大きくなり過ぎたわ。王は力を過信し過ぎよ」


 神殿の移動準備。民への周知。

 目の回るような十日間となる。

 可能なら、聖女の加護がなくなった未来も、豊穣が続く国にしたい。


「力があるうちに雨を降らせ続け、ここを湖にしましょう」

「水路を張り巡らせ、魔物が入ってきても防御しやすい国にしましょう」


 私とシャナで、地図を睨んで計画する。

 北に山、南に海、残りは砂漠の土地なので、自由度が高く、町計画は楽しい。

 追放されて沈んでいた気持ちも、シャナと未来を話してるうちに晴れてくる。


 そして、神殿の大移動が始まった。


「王家についたのが九割、神殿についたのが一割といったところですね」


 シャナと船の甲板から、港にあふれる人を見下ろす。

 一緒に今まで耕してきた土地を捨てる人達。


「強い新聖女が現れたのに。追放された私に、こんなについてきてくれるなんて。……申し訳ない。私は頑張らなきゃ……」

「歴代聖女様の人望なのでしょう。聖女様の献身を知る民も支え合いたいのです。俺も」

「俺も?」

「ウィンディーネ様を守りぬきます」


 あまり名を呼ばれない私。トクン。胸の辺りが暖かくなる。

 生まれて初めての引っ越しが、不安だからもある。

 自信喪失してるからもある。

 シャナの頼もしく凛々しい微笑みで、心が強くなる。



 移動は二十隻の船。

 船は何往復もし、一ヶ月経っても止まる気配がない。

 どんどん新住民が増えていく。

 ん? おかしいな。


「聖女様が祈りをやめた瞬間から、王国では雨が降らなくなりました。夜は魔物だらけです」

「新聖女の加護は?」

「全くございません!」


 いったいどういうことかしら?

 すると宰相まで船から降りてきた。


「宰相。どうして新聖女は力を使わないのです?」

「お助けください。新聖女様は力の使い方をわからないのです」


 宰相に隠れるように、さらさらの黒髪少女が怯えている。


「貴女が新聖女?」

「いきなり聖女なんて言われても困ります。もうどうしていいか」

「私が力の使い方を教えます。陛下と結婚し王国を守るのでしょう?」

「嫌です。あんな王様」

「まぁ。気持ちはわかるけど……わがままは……」

「私は宰相様をお慕いしております!」


 おおっとぉ?

 宰相は太った中年。新聖女は美少女。

 周囲の視線は一気に冷ややかになり、宰相にアウトと告げる。


「としこ? としこなの?」


 よしこ様が新聖女に近寄る。

 新聖女は、怪訝な顔で首をかしげる。そして唐突に叫ぶ!


「よしこ姉ちゃん? 十三歳で誘拐されたよしこ姉ちゃん?」

「ええ。としこも来たのね」

「私は四十九歳まで、向こうにいたけど……」

「死ぬ前に家族に会いたいと私が願っちゃったからかしら?」

「今年両親も死んで、私も一人で、家族が欲しいと願っちゃったの」


 再会を喜び姉妹は抱き合う。

 まさか私の親戚だったとは。

 新聖女としこ様の中身は四十九歳。

 十代の美しい王より、質実な宰相を選ぶのもありなのか?

 どうなんだ?

 周囲は、二人の愛を認めるべきか混乱する。


 ただまぁ力の使い方を学んだとしこ様は凄かった!

 私は雨雲を呼び砂漠に湖を作るのが精一杯。

 としこ様は大地を裂き巨大湖を作った!


「趣味は温泉巡りだったの。寒いのダメなのよぅ」

 十二ヶ所も温かい泉を噴出させた!


 としこ様の凄さは、桁外れの力だけでない。

「ふふん。都市開発シミュレーションゲームに一時期はまったのよ」

 ゴミ処理、交通、上下水道、学校の建設場所にアドバイスをくれた。

 シャナはとしこ様から学び、人が住むのに合理的な町に変えていく。


「アロマの体験教室いっといてよかったわ。どうしても清潔に生きてたいのよぅ」

 としこ様はオリーブオイルと塩から石鹸を作った。


「感染症にはマスクと手洗いよ」

 医学の知識もあり、異国船の乗組員から高熱が広がるのを防いだ。


「ありがとうございます。これはもはや神の領域……」

「やめてぇ。普通のおばちゃんに、もう」

「なんて謙虚……」

 感謝し敬う民を前にしても、としこ様は驕らない。

 民の方が崇め奉りたくてウズウズしてしまう。


 そして嬉しいのが料理!

「捨てちゃうのは、もったいないわ」

 鳥の骨や、魚の粗で、感動するスープを作る。

 家宝のマニュアルは、としこ様のおかげで膨大になった。




「だがワシは、王国が衰退していく姿を見てるのが辛い」


 責任感の強い宰相がこぼす。


「宰相が戻るなら私も王国に戻るわ。ただし、王様とは結婚しない」

「ワシもとしこ様を幸せにしたい」


 腹の出た宰相が、美少女であるとしこ様を抱きしめる。

 やはり、いかがわしい気がしてしまう。


「叔母様の幸せを応援いたします!」


 祖母が力強く言った。

 そうなると、見た目どうこうより「祖母の叔母」と思えてくる。

 実際、知識も人柄も素晴らしいし。


「宰相が王になればいいのよ。その方が王国もよくなるわ!」


 母もとしこ様と宰相の背中を押す。


「みんな。ありがとう。必ずとしこ様を幸せにしてみせます」

「もう幸せよ。ただのおばちゃんには夢みたい。私も宰相を必ず幸せにします」


 涙する二人を乗せた船は、出航した。


「いいな。としこ様は幸せそうで」

「ウィンディーネ様を幸せにしたいですけど?」


 隣のシャナがぼそっと言った。


「なにそれ、プロポーズ?」

「受けてくれなくても、朝起こす役目は誰にも譲りたくありません」

「確かに他の人は嫌だわ。でもまだ結婚には早すぎる」

「ゆっくり待ちますよ」


 そして私とシャナは恋人になった。

 まぁ、なにが変わったわけでもないんだけど。

 ちょっと手が触れるとか、そういったドキドキが、毎日の中にいっぱい増えた。



 すると、やってきたのは元婚約者。

 追放しておいて、よく来れるなと。

 私自身はまだいい。よくないけど。

 この人には、田畑を耕す人が見えないのかな。


「宰相が裏切り革命を起こした。しかも、おぞましくも美少女を妻にした」

「としこ様ならずっと独身で『今すっごく幸せ』とおっしゃってたから問題ないかと?」

「中年男が美少女を騙し、もてあそんでいるのだぞ?」

「力関係はとしこ様が上ですよ? 汗だくの宰相に『長生きして』とジョギングさせてましたから」

「なら、私はどうなる?」


 知るか。と思ったけど、聖女として微笑む。


「ご自由に恋愛を楽しんでください」

「身分を失ったら、女が寄ってこなくなった……」

「そう……」


 でしょうね。


「後悔してるんだ。私には聖女が必要だ!」

「『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし』初代も申してましたわ」

「わけのわからぬことを」

「流れ自体が絶えずとも同じ泡はない。人も同じ。変わるのです。後悔しても遅いのです」

「で、でも、この地も王が必要だろう?」

「私が女王となりました。そうすれば今後、無理に結婚で統治者と繋がる必要がないので」


 元婚約者が唖然とする。

 魔物に襲われない。必ず豊作。

 だからと胡坐をかいて民をほったらかしだったくせに。

 もはや統治者ですらなかった。ただの怠け者。要らないのだ。


「……わかった。仕方ない。王配となろう」

「私には運命の人がいます。どんな時も私を支えてくれた人」

「な」

「見てください。この誇らしい運河を! 道を! 私の恋人が主導して造りました!」

「な」

「私は強い聖女ではございません。ですから支え合う人が必要です。今とっても幸せなのです!」


 元婚約者は顔を真っ赤にして、何も言えずに立ち尽くす。

 私は初めて、心の底から勝利と幸福を実感した。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
面白かったです! 新しい聖女の「としこ」様という名前と年齢もツボでした。 ざまあもあり、主人公は幸せになり、大満足です!! 面白い物語をありがとうございました!!
宰相さんんんwww ダイエットさせられとるww 美少女に長生きしてって言われたら、 そりゃ頑張っちゃうよね
温泉沸かせるのが強い〜〜!!流石です!! 宰相やり手ですもんね。そりゃそっちのほうがいいわ…
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