第9話 始まり
アルベールと出会ってから月日が流れた。
健の受験もすんなり終わり、彼は志望校に合格した。
一方で、鹿山には睨まれることは多いが、新島との揉め事以降は何か言われたりすることはなくなった。
何かと光の隣に新島がいるからということもあるが。
クラスでも異例の組み合わせで話しかけたりする者もおらず、平和な日を送ることができた。
そして新島とクラシス以外の契約者には出会うことないまま、二人は高校2年の新年度を迎えた。
4月1日。
「光君! 今日からです!」
日付が変わった瞬間、アルベールが光を呼ぶ。
新学期が始まるのは4月の7日。まだ春休みのため夜更かしをしていた光のスマホが突然激しく振動した。
静かな夜に響くバイブ音。突然の音に一瞬ビクッとした光に対し、アルベールは動じていない。
「なになに……アプリ通知? ってこれは……」
『world battle』の通知が来ていた。
その内容は驚くものだった。
「王を感知しましたって……? もしかして近くにいる?」
「ええ。この近くにどこかの国の王とその契約者がいるようです。特定されなければ攻撃されることはありません」
「他にも戦ってるとかっていうのもきてるけど」
「争いはもう起こってるんです」
アルベールは少し悲しそうな顔をして答えた。
「普通の人と契約した人なんて見た目じゃわかんないでしょ?」
「見た目では確かにわかりません。ですがそのアプリを使えば敵が近くにいるほど反応が大きくなります」
光のスマホのバイブがいつの間にか止まった。契約者が遠ざかったのだろうか。
「今日から国の設備を利用できます。防衛設備だけでも強化しておきましょう?」
「攻め込まれないために?」
「僕は領地を増やそうなんて思っていませんから。国を守ることができればそれでいいのです」
机にスマホを置き、アルベールの指示するとおりに操作する。
国を守る壁や少人数だが防衛隊の設立を行った。設備投資が国費からひかれる。しかしまだ残金は残っている。
「とりあえずの設備はできました。まだ初日ですからそんなに強い攻撃されることはないと思います。なのでまだこの程度で耐えられると……」
とりあえずの設備は完成した。この作業をやっている間に深夜の1時を過ぎていた。
「もうこんな時間に……ごめんなさい! 夜更かしをさせてしまって! 何が起こるか分かりませんし、今日はお休みしましょう」
光がベッドに入るとアルベールが電気を消す。スマホのブルーライトを浴びたせいか寝付きは悪かった。
目が覚めたのは10時を過ぎてきた。
アルベールは机で光のスマホを立てかけて国を見ているようだった。
「おはよう」
「おはようございます。昨日はすみません。無理に起こすのはよくないと思いまして、僕が勝手に拝借しております。申し訳ありません」
アルベールは光の方を向いて挨拶を返したのちに、深く頭を下げる。
「謝らないで。心配だもんね。スマホは好きに使っていいから。それより、何か起きた?」
「ありがとうございます。まだ何も起きてしません。ですがやはり近くに王がいるようで通知が来ました。近くに住んでるのかもしれませんね」
光の家は住宅街の一つだ。家が密集しており、近くにいるとしても対象の家が多すぎて探すのには一手間かかる。
こちらが相手を知っても攻撃されても困るので放置することにした。
この時間だと両親は仕事に行っているため不在。健は何をしているかわからないが、よく出かけている。つまりこの時間は光一人になる。
「光君、少し戦う練習しましょう?」
「弱いのに?」
「攻撃はしません。自衛です」
光が寝間着から着替え終わったところに、アルベールが飛んできて肩に座った。
「防御魔法のシールドです。弱い攻撃なら防ぐことができます」
アルベールは目を閉じて左手を前へ出した。
「光君も手を出して、壁があるようなイメージをしてください」
「こ、こう?」
アルベールと同じように左手を前へ出す。目を閉じて壁をイメージする。
「僕がカバーします。もう少しイメージを具体的に……」
「具体的っていってもわかんないし、うーん……」
「壁……よし、目を開けてください! いきます」
少しふわっと風が吹いたような感覚がした。目を開けると目の前には縦横それぞれ二メートルぐらいのクリアな薄い青の壁が映った。
「手はそのままです。崩すと壁はなくなってしまいます」
「な、なに? これ」
手はそのままに唖然としていると、アルベールは顔だけ光の方を向いた。
「シールドです。弱い物理攻撃や魔法を防ぐことができます。練習してすぐに出せるようにしましょうね」
腕が段々重く感じて下ろすと壁は消えた。
そして自分の手をまじまじと見た。
「こんなの初めてだ……」
「魔法ですから、初めてで当然ですよ」
「それもあるんだけど……初めて試してみて出来るってこと自体が初めてで。俺、今まで一つのことができるようになるのに何週間とかかけてたから」
光の嬉しそうな顔をアルベールは肩から優しく見つめた。
「できてよかったんだけど、すごい疲れた……」
「いくら僕がカバーしてても、最終的には光君の体力を使いますしね。体力作りもしないと」
運動音痴な光に体力はない。運動するのは体育の授業のときだけだ。日々自転車で学校へ通ってはいるが日常ではその程度の運動しかない。
「明日からは体力つけていきましょうか! 朝に走り込みましょう!」
アルベールはなぜか嬉しそうな顔をしている。
光はものすごく苦い顔をしてアルベールを見るしかできなかった。




