第6話 学校生活(3)
顔を真っ赤にした王は視線を合わせないがまっすぐ立って自己紹介をする。
「俺はグレッザ王国、国王クラシスだ。お見苦しいところを見せてしまい大変申し訳ない!」
そう言ってクラシスはものすごい勢いで土下座をした。血がでるんじゃないかという勢いで頭を何度も下げる。そのたびに、ダンっと音が出ていてあまりにも痛々しい。
「クラシス、頭を上げてください。血が出てしまいます」
「その声……アルベールか!」
パッと顔を明るくして頭を上げたクラシスに、アルベールは手を差し伸べた。その手をとって立ち上がりアルベールに抱き付く。その様子は昔からの仲といったところだろう。
「会いたかったぞ、アルベール! 会うのはお前の兄のとき以来か! 久しいな!」
「クラシス、その話はちょっと……」
アルベールの顔が一瞬暗くなった。『兄のとき』というのは何のことなのだろうか。光と新島は黙って二人の王を見ていた。
「おう、すまないな。何よりお前に会えてよかったぞ! こやつの頭が悪くて話が通じなくて困ってたのだ!」
「あら……ねえ、光君。クラシスは信頼できます。彼とは昔からの付き合いなんです。どうでしょう? 彼らに協力を仰ぐのは」
振り返って光の顔を見る。光に断る理由もないので、うなずいて返した。
「光君からの許可も出ましたし、クラシス、同盟を組みましょう。光君、スマホを出してください」
「竜之介も出せ、おら」
ポケットからスマホを取り出す光だが、パンを食べ続ける新島。
「竜之介! スマホを出せ!」
「んあ、今日持ってきてねえよ。家に置いてきた」
新島の言葉にクラシスの動きが止まった。そして再び新島を蹴り始めた。
「なんで持ってきてないんだ! 俺は持ち歩けと言っただろう!?」
「今日は言ってねえよ。昨日は持ってきてたじゃねえか」
「この世界では連絡手段として必要なものなのであろう? なぜ持ち歩かないのだ」
「だーかーら、連絡することなんてないし使わないからだって」
新島とクラシスの喧嘩を光とアルベールはほほえましく見ていた。
二人の喧嘩はそのまま続き、もらったやきそばパンを食べきってもなお続いた。そして午後の授業の予鈴がなる。
「授業あるし、教室に戻るね」
「クラシス、お前はそこのアルベールと話してろ。俺も教室に行く」
蹴り続けていたクラシスと静かに見ていたアルベールを屋上に残して光と新島は教室へ向かう。途中で新島が光に話しかける。
「光、今日予定ないならうち来いよ。スマホ家だし、お茶ぐらいだすし。ここから近いからさ」
「考えとくよ」
話しながら――とはいっても新島が一方的にしゃべって光がうなずくだけだが――教室に入ると鹿山が立ちふさがった。
「おいおい、まさか授業を受ける気か? ダメピカ」
「授業だし、受けないと……」
「目障りなんだよっ!」
そう言って鹿山が殴りかかろうとする。それを光の後ろにいた新島が片手で鹿山のこぶしを止めた。
「人を殴ってんじゃねえ!」
こぶしを止めた手とは反対の手で鹿山を殴った。鹿山は本日二発目の攻撃になすすべなく受けるしかなかった。そしてそのまま倒れこむ。
この現場を見ていた光とクラスメイトは同じことを思っただろう。
お前は人を殴ってるじゃないか、と。
「ありがとう……でももう俺に関わらない方がいいよ。鹿山がもっとひどいことしてくるから」
「あんな群れなきゃやってられないやつ弱いだろ。やることなんかたかが知れてる。んなの、倍返しにしてやらあ」
「あれは人を従えないと満足しないタイプなんだよ。怪我しないように関わらないようにしたほうがいい。鹿山は俺に固執してるみたいだし」
「んなの関係ねえよ、俺ら友達だろう?」
「……っ」
自分の席に向かうと、引き出しに入れていた教科書やノートが刻まれて引き出しに入っていた。午後の授業で使うものも入っていた。筆箱に入れてたペンは折られており、授業を受けることが難しくなった。
今まで真面目に目立たないように過ごしてきていてこんなことをされたことは度々あった。何度こんな事をされても慣れることはない。いつも辛くなる。
「こりゃないぜ……おい、鹿山ぁ!」
呆然と立ち尽くしていると後ろから新島が覗き込み、先ほど殴った鹿山を見る。鹿山は頬を抑えながら少しにやついていた。
「馬鹿が! 俺がやったっていう証拠でもあんのかよ?」
「うるせえ!」
新島は飛びつくように鹿山の首元を持って立ち上がらせる。その光景にクラスの女子から悲鳴が上がる。
「ダメだよ。人を殴っちゃいけないってさっき自分で言ってたじゃん。俺は大丈夫だから。ノートとかはまた買えばいいんだ。買えば済む話だから……」
光は新島の腕に触れて制止させる。鬼の形相で殴りかかろうとしていた手を止め、鹿山を離した。
「光……」
「その面だよ、その面が気に食わねえ!」
光は新島や鹿山の顔を見ることなくうつむいたままだった。鹿山は光をにらみつける。視線を合わせることなく、光は自分の席へ戻っていった。新島は少し悩んだ顔をしたが、何かを思いついたのか新島も自分の席へ向かった。
「俺ここで授業うけるわ! ほら、教科書と、あーっとルーズリーフでいいか?」
「席そこじゃないだろ?」
光の隣の席に新島が座った。隣にいた生徒は新島の席へ移っていた。
「いいじゃねえか。交換してくれっていったらしてくれたぞ? 使えって」
新島が光の机と自分の机を寄せ、ほとんど使ってないのか折り目のない教科書と少し皺の入ったルーズリーフ、シャーペンと消しゴムと出した。
「ありがとう、助けられてばかりだ」
「困ったときはお互いさまだろ?」
クラスのざわつきもおさまってきたころ、教室に白髪交じりの男性教諭が入ってきた。殴られて腫れている頬を抑える鹿山を見て見ぬふりをしたが、異様に席を近づけている光と新島を見て顔をしかめた。
「せんせー! 俺視力悪くて教科書忘れたんでこうなりました!」
「お前は視力2.0だろうが。まあ、なんでもいいが静かにしろよ」
「はーい」
教室がざわついたが、新島は気にする様子もなかった。
今までこんなことをしてくれる人もおらず、少し嬉しくなった光は先生の雑談のときでさえ真面目に話を聞いてノートをとった。
一方隣の新島は授業開始十分で寝た。もちろんノートは真っ白だ。
時々「ふがっ」といびきをかいているのを見て、光は初めて楽しい授業だと思えたのだった。
まだまだ続きます。




