第4話 学校生活(1)
アルベールの服を一式洗い終えて、一度二人ともシャワーを浴びてから浴室を出た。
アルベール用にはハンドタオルを一枚渡し、光はバスタオルで体を拭いて着替える。ハンガーにかけなかったことで、少し皺が付いてしまった制服を着る。それからアルベールの服をドライヤーで乾かし始める。
「それ何です?」
タオルを体に巻き付けて顔だけ出したアルベールが問う。
「ドライヤーだよ。暖かい風で髪の毛を乾かすものだけど、服がないと困るでしょ」
アルベールの世界にはないのだろうと思い、大まかに説明する。アルベールの服は小さいし、かなり早く服は乾いた。
「乾いたから、これ着てちょっと待ってて」
服を受け取ったアルベールは着替える。その間に光は髪の毛を乾かし始めた。
「思ったんですけど、光君の顔、整っていますよね」
突然そんな事を言われて驚いて手が止まった光だが、すぐに手を動かす。
「そんなことないよ。嫌われ者の顔だよ」
「いえ、とても綺麗ですよ。髪型を変えたら、きっと印象も変わります。今度やってみましょう? ね?」
「……考えとく」
髪を乾かしながら他愛もない会話をしていると、時刻は七時になるところだった。
もうそろそろ朝食の時間だ。早く食べなければ、遅刻しかねない。
髪の湿り気がなくなったところでリビングへ向かうと、朝食の準備をしている母とネクタイを締めて鞄の中身を確認しつつ身支度をしている父がいた。
「おはよう」
「おはよう、光。珍しいわね、あなたが朝にお風呂入るなんて。大雪にでもなるんじゃないかしら?」
「なぜ朝風呂に入る。風呂は夜のうちに済ませろ」
「ごめんなさい、父さん」
「父さんたら厳しいんだから。ご飯はあと10分ぐらいかかるから、荷物の準備でもしてきなさい」
光はうなずいて再び部屋に戻る。
アルベールは光の肩に座りながら、会話を聞いていた。
「厳しいお父様なのですね」
部屋に戻ると光に声をかけるアルベール。
教科書や体操着をリュックにをまとめながら光も答えた。
「いつもあんな感じだよ。だから少し怖いんだ……」
光の言葉にアルベールは心配そうな顔をしつつ胸を押さえた。
「まだ体調よくない? 休んでいた方がいいんじゃないの?」
「少しくらいなら大丈夫ですよ。心配ありがとうございます」
「ならいいけど。あ、そういえば何も言われなかったけど、もしかして見えないの?」
「はい。僕のことは契約した人と、光君と同じ、他の契約者にしか認識できません。それ以外の者には見えたり聞こえたりすることはないのです」
「へぇー不思議。なら、話しかけていると独り言みたいに聞こえちゃいそうだし、人前では気をつけるよ」
「はい、よろしくお願いします」
学校へ行く準備を終える頃には朝食の時間となった。
朝食には寝癖のついたままの健も起きてきて一緒食べる。今日は、家を出るのは光が一番早かった。
学校までは自転車で二十分ほど。遠くなく、教室でひとりで居ることも多く苦痛だったのでいつもは始業時間のギリギリに家を出ていた。それゆえ、父と健が家を先に出ている。
さぞかし今日は家で光が先に出たことに家族は驚いていることだろう。
「僕は学校に着いたらフラフラしてきますね。帰る頃には光君のところへ行きます。授業、頑張ってください」
「うん。わかった。身体、気をつけてね。無理しないで」
自転車を走らせながら話す。アルベールは肩に乗ったままだ。元々人通りのない道のため、独り言のように話す光を気にする人物はいなかった。
光の学校は偏差値が低い学校である。金髪の者、化粧が濃い者、遅刻する者なんて多い。校則を律儀に守る人のほうが少ない。光は数少ない校則を守る側の少数派だった。守っているといっても、破るような校則が特になかったためでもあるが。
教室に入ると登校していたのは一人だけだった。
「おはよう、早瀬くん。今日は早いじゃないか」
先に来て席についていたのは校則を守る数少ない生徒の一人、坂戸正樹だった。
シャツは第一ボタンまでしめて、ネクタイをきちっとしめるようないかにも真面目タイプの人だ。正樹は学級委員をやっているため、業務連絡程度には話したことはある。顔を知っている程度だ。
「うん、おはよう」
挨拶を返して窓際の一番前の自分の席につく。正樹は席に着く光に近づいた。
「早瀬くん、君はどこか疲れてるんじゃないか? 昨日より目の周りがくすんでるようにも見えるが……」
「え? そんなことないよ」
顔を覗き込まれたがとっさに視線を外す。人と関わることが少なかった光は、目を合わせるのすら苦手だった。
昨日はスマホを見ながら寝てしまい、早くに起こされたから睡眠の質も悪いし睡眠時間も短い。だからいつもと違うのかもしれない。それに気が付く正樹の観察眼に少し引いた。
「そうかい? ならばいいんだが。風邪もひきやすい季節だ、体調管理はしっかりするようにな」
そう言うと正樹は自分の席へと戻っていき、次々と登校してくるクラスメイトに挨拶をしていた。
その後は授業が始まるまで外を眺めていた。その姿をにらみつける人物がいることにも気づかずに。




