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スマホで繋がる異世界戦争  作者: 夏木
出会いと始まり
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第1話 出会いは突然に

現代ファンタジー、よろしくお願いします!



 早瀬はやせ ひかるは昔から何をやってもうまくいかなかった。

 どれだけ勉強をしても成績は下から数える方が早い。

 運動神経は悪くて、テニスラケットを振ればラケットが飛んでいくし、サッカーをすればボールを蹴ることができずに空振りとなる。

 ならば芸術面を伸ばそうとして絵画教室やピアノ教室にも通ったが、2年通ってやっと1ヶ月習った子と同レベルになるぐらいであり、才能のなさが浮き彫りになり、講師からも「他のことをやったほうがいい」とまで言われて辞めた。

 そうしていくうちに親も光に期待することなくなった。代わりに光と対照的で、何でもできる1つ下の弟・たけるに期待するようになった。



「ただいま……」


 玄関に入ると夕食の準備をしているようで、美味しそうな匂いがする。

 キッチンを覗けば母・美代子みよこが料理しているところであった。

 どうやら今日のメニューはカレーのようだ。



「あら、おかえり。健に風邪とかひかせないように手洗いうがいしてね」



 顔を見ることなく言う母。いつも同じような内容を言うが、目は合わない。これが光の日常だった。



「うん、わかった」



 健は来月高校受験を控えている。どうやら偏差値も高い有名私立高校を受験するらしい。成績優秀、教師からの評価もよい。内申点も問題ないし合格間違いないだろう。

 それに対して光は定員割れしていて受験すれば入学できるような偏差値も高くない高校に入り、帰宅部として過ごしもうすぐ1年経とうとしている。


 母に言われたとおりに手洗いうがいを済ませて2階にある光の部屋へ向かう時、健の部屋のドアが開いた。



「ああ、何だ帰ってきてたの。マジ空気だから気づかなかったわ」



 すれ違いざまにこんなことを言うのも日常だ。

 文武両道おまけに誰が見ても華やかでかっこいいと思わせる見た目をもつ出来の良い弟。

 同じ血が流れているのに、地味で前髪を伸ばして暗い見た目。さらに中身がダメな兄。

 毎度のことながら何も言い返せないので、そそくさと部屋に戻るしかなかった。


 自分の部屋に入りドアを閉め、ドアに背中を付けて頭を抱え込みしゃがみこんだ。



「もうしんどい……何やってんだ俺」



 何もできない自分に嫌気がさす。言い返すこともできなければ何かをやり遂げることもできない。悔しさで光は泣きそうになるのを、どうにか堪えようとして唇を強く噛んだ。

 そしてそのまま静かに時間が過ぎていく。




 ――ねぇ、僕の声聞こえる?


 ふと聞き慣れない声が聞こえた。

 今はもう冬。夏なら夕方でも明るいが、外はすでに真っ暗になっている。小学生がうろつくような明るさではない。

 声の主を探して光は顔をあげた。



「やっぱり聞こえてるんだね!」



 目の前には15センチぐらいの人が浮いていた。

 見間違いかと思い両目をこする。

 間違いない、小さな人が浮いている。



「初めまして。僕はアルベールって言います」



 短い白髪に黄金の瞳をもつアルベールと名乗った人は丁寧に頭を下げる。

 つられて光も軽く頭を下げた。



「僕は君みたいな人を捜してたんだ」


「言ってる意味がわからないんだけど」


「簡単に言えば……僕を助けてほしい」


「うん、いいよ」


「え!? 何も聞かずに返事しちゃうの?」


「なんで? 困ってるんでしょ? 俺に出来ることならやるよ」



 困ってる人がいれば助けなさいと、小さいときから祖父に言われてきた。学校でいじめられたとき、辛いことや悲しいことがあったときはいつも近所に住む祖父の家を訪ねていた。そして祖父にいつも言われていた。


『今は光が辛くてもおじいちゃんがおる。いつでも来なさい。でももし、誰も手を貸してはくれなかったんじゃ悲しいだろう? だから他の人が辛かったり、困っていたら助けてあげなさい』



 4年前に祖父が亡くなったが、今でもその言葉をずっと守っていた。



「流石だよ、光君」


「何で名前を?」


「ごめんね、最近こっちに来てからずっと君の後をつけて様子を伺ってたんだ。だから名前も生活も知ってる」



 アルベールは申し訳なさそうな顔をしている。

 そういえば最近たまに視界に白い光が入ることがあった。瞬きをしたり、目をこすったりすると光はなくなることから、疲れでもたまってるものだと思ってたがアルベールだったのかもしれない。

 一人で納得していると、アルベールは床に座り、真剣な顔をして光を見つめる。



「僕を助けることで、君に何か害が起こると思う。痛かったり、苦しかったりするかもしれない。それでも僕を助けてくれますか?」


「君が助けてって言うなら助けるだけだよ。俺がどうなっていようが、大丈夫。何にも出来ないかもしれないけど、出来ることがあって、君が助けてほしいなら助ける」



 アルベールは少し暗い顔もしたが、すぐに立ち上がり、腰を90度に曲げて頭を下げた。



「ありがとう、ありがとうっ! 僕は君に出会えて嬉しいよ!」



 その声は泣いているのか震えていた。


 この奇妙な出会いにより、光の日常は一変することとなる。

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