第一章 08 今の状況
08 今の状況
契世暦382年一月、三人は魔物狩り屋の旅に出発した。
年末年始は、それぞれの家でゆっくりすごした。年明けにミーヤに生理が来て、数日後にマアチに生理が来た。だから、二人の生理が終わった、一月の十五日にミナミライの村を出発した。
まずはライの町に腰を据えて、旅の魔物狩り屋としての振る舞いを練習することにした。
ミナミライの村からライの町へは徒歩で半時限もかからないが、ライの町はそこそこ広い。学校は町の南西、酒場は町の南東にあるので村から近かったし、魔法屋も町の中央の南寄りにあった。だが、ライの町の北側へ行くには、村からライの町の南側へ行く時間の倍ほどかかる。
ライの町の北には、小さな山がある。
さらに北にはシャバシャという町があり、ライの町から街道が延びている。街道はライの町の北から出て、山を西から回り込んで北に続いていく。
街道が迂回する程度には大きさがあるので、深く入ればそれなりに強い魔物がいる。だが強すぎる魔物は出ない。もちろん浅いところには弱い魔物がいる。という、魔物狩り初心者にはちょうどいい山だった。
三人はライの町の北の宿屋に連泊することにした。
魔物狩り屋として旅をする人間が多くいるので、町にはそのための宿屋がいくつもある。魔物と戦うのに、着替えなどの荷物があっては邪魔だ。だから魔物狩り屋は、かさばる荷物を宿屋の一室に残し、武器防具や貴重品だけを持って出かける。町の近くの森や山など、魔物の出る場所へだ。そして日が暮れるまで戦い、夜は町に戻る。
宿屋に泊まるのも、魔物と戦うのも新鮮で、ミーヤとマアチは興奮の連続だった。初めての戦闘は緊張したが、ボウがいたのでなんとかなった。やがて慣れてくると、魔法屋での訓練が生かせるようになった。
日帰りで魔物を倒し、宿屋で眠る日々。
何度も来ているライの町なのに、こんな刺激的な生活ができるなんて知らなかった。魔物狩り屋ってすごい。他の町に行ったらもっと知らないことがあるの? 旅って楽しい!
二人は心躍らせながら過ごした。
やがて二月九日、マアチに生理が来た。魔物狩りはやめて、宿で休んだ。
二月十日も当然マアチは生理で、雨も降った。魔物狩りは休んだ。
二月十一日は曇りだが、もちろんマアチは生理。休み。
そして今日、二月十二日。ミーヤにも生理が来て、今こうして座っている。
「そろそろ来そうな感じはしてたんだよ。マアチとかぶるかもって思ってたのに」
ミーヤは肩を落とす。
マアチの生理周期は約30日なので、毎月ほぼ同じ時期に生理が来る。月の初めから半ばにかけてだ。
ミーヤの周期は不安定で、今回は40日ほどだが、20日ぐらいで来るときもある。
「こないだからちょっとだけ血が出てたの。で、マアチが生理来たっていうし、やった! 二人の生理がかぶれば、魔物狩りを休む日も同じに出来る、先月はあんまりおなか痛くなかったし、生理があっても冒険の旅をうまくやれるぞって……。そしたら全然生理が始まんなくて……」
「あるよなー。オレも最近は安定して来るけど、最初の頃はめちゃくちゃだったし。
そろそろ来そうだからナプキン当てとこう、トイレ行く度に、あっちょっと血が付いてる、これから本格的に来るのかな、来るなら早く来いよ、ってずっと身構えてたら、はいフェイントでしたー! って一日が終わってくと、自分の腹だけどぶっ飛ばしたくなるよな」
二人はうなずきあう。
「そうそう! でもフェイントと見せかけてドバッと始まる日もあるからそれなりに大きめのナプキン付けるでしょ? で、これって出血したのかな、汗で蒸れただけかな、とか一日ずっと気にして頻繁にトイレ行ってさ、そんな日が何日も続くの勘弁して欲しい。出血が始まったら痛むことが多いから来て欲しくはないんだけど、生理前だってなんとなくお腹が重いし気も滅入るし全体的に調子悪いし」
「だよな! オレ、生理前は絶対便秘になって、生理が来ると下痢気味になるんだよ! どんだけ食事に気をつけててもなる。ミーヤみたいな生理痛はだいぶ減ったんだけど、そっちの腹痛がちょくちょくあるんだ」
「それもつらいよね。私はとにかく出血初日がつらくて。でも、この一番しんどい日を乗り越えれば、あと一ヶ月は苦痛の日が来ないぞって思うと、生理前の滅入ってた気分が明るくなるんだ。予定も立てられるし」
「今日休んで、明日も雨も降るし休みにしといて、明後日ならだいぶマシになってる、って想像できるもんな。オレはほぼ終わりかけだし、ミーヤも大丈夫そうか?」
「うん。明後日には痛みも無いし、出血もだいぶ減ってると思う」
「そりゃよかった。でもよー、何で毎月こんな嫌な思いしなきゃなんねえんだろうな? 体が子供を生む準備をしてるから血が出るらしい、ってことだけど、今から準備いらなくねえ? 子供産むどころか相手もいねえっつーの! 必要になったときだけ準備すりゃいいのに」
「ほんとにねー」
ミーヤはうなずき、また腹を押さえた。
「横になった方がいいんじゃねえか?」
「でも、夜用付けてないんだ」
今朝、ミーヤはようやく出血を感じた。だが、少し鮮血は出たが、まだフェイントかもしれない、とやや大きめ程度のナプキンに替えて三人で朝食に行った。しかし、食事中にも出血を感じ、痛みも始まった。そして宿に戻り、痛み止めを飲んで、今こうして座っている。
「でも痛いんなら寝た方がいいぜ。眠れそうなら眠ってもいいし。どうせ今日は休みなんだからさ」
「そうだね。じゃあ、セッティングしないと」
ミーヤはゆっくり立ち上がり、血がドバッと出る感触にうめいた。
そしてリュックの中を探り始めた。