第一章 07 魔法
07 魔法
はるか昔、世界のエネルギーは『神』として人間の前に現れた。
神は人間に恵みを与えたが、恐ろしさも与えた。
人間は、神の力を意のままに操りたかった。
神は、世界のエネルギーを活発に循環させたかった。
神と人間は契約した。
人間は神を二つに分けた。
自分達の意のままになる『精霊』と、自分達に牙を剥く『魔物』に。
その時から人間は『魔法』を使えるようになった。
契世暦の始まりである。
初級学校の、読み書きの教本に載っている話だ。教本には、さらに詳しい説明が続く。
人間が魔法を使えなかった頃、つまり契世暦以前は、数少ない豊かな土地を求めて、人間同士の争いが絶えなかったという。
しかし、人間が魔法を使えるようになり、世界は一変する。
まず、水の入手に困らなくなった。水があれば、荒れた土地でも何かしらの作物は育てられる。土地を求めて人間同士で争う労力を、土地の開墾に向けられるようになった。また、トイレや風呂、洗濯などにもふんだんに水が使えるようになり、衛生状態が良くなった。
火も魔法で得られるようになったため、暖を取ったり、加熱調理をしたりするのが簡単になった。他にも様々なことが魔法で便利になった。
回復魔法は怪我にしか効かないが、魔法により、生活の質が上がった。だから病気で亡くなる者も、契世暦以前より減ったのだという。
神と人間が『契約』し、『世界が変わった』のが契世暦元年だ。
今年は契世暦382年になる。
世界は国家間の争いが無くなり、安定していた。
リトゥの国では、15歳前後まで初級学校に通う。40歳ぐらいまでには、結婚して子供を持つ。80歳を過ぎて、孫がある程度成長した頃に一生を終える。というのが一般的になっていた。もちろんミーヤの母のような事もあるが。
「クールかなあ? 父さん、仕事は真面目にやるけど、家に帰ったら黙って酒ばっかり飲んでるよ」
祖母が亡くなってからは、ミーヤが食事の支度をするようになった。数日に一回、ライの町で日持ちのするパンやソーセージを買ってきたり、村の野菜でスープを作ったりしていた。
ミーヤの父は昼間、村を回って上水タンクに水を満たす。日が暮れて仕事を終えると、ミーヤと夕飯を食べながら酒を飲む。あまり会話は無い。
「どっかに飲みに行くでもなく、騒ぐでもなく、だまーって夕飯食べながら酒飲むだけ。その後は外とか見て物思いにふけってる」
ミーヤはため息をつく。
「でも、飲んでも静かなのはいいよな。酔っ払いってうぜえもん」
マアチがまた思い出して顔をしかめた。
ボウ、マアチ、ミーヤの三人では戦力的に厳しいかも。物理攻撃の得意な男が一人か二人、仲間を探していないだろうか。うまくパーティを組めたらいいんだが。そう考え、三人は一度、ライの町の魔物狩り屋専用酒場に行った。
だが、ボウが酔っ払いに「お前、一人で女二人も連れてんのかよ、こっちにも寄こせよ」と絡まれて終わった。
「オレ達は兄貴の所有物じゃねーし! あんなとこ、二度と行きたくねー!」
マアチがうなる。だからもう、酒場に行くのはやめて、この三人でやっていこうと決めたのだ。
「三人でも、私達が強くなれば問題ないんだよね。魔物狩り屋としての行動に慣れたら、もっとうまくやれると思ったけど……。結局、こんなことになって、ボウ兄さんには迷惑かけてるよね……」
ミーヤは腹を押さえた。




