第一章 06 今のパーティ
06 今のパーティ
ボウは去年の十月、年末に家に帰ってきた。春になる直前、年越しの手前だった。
気候の変化の激しい国もあるそうだが、リトゥの国の気候は穏やかだ。
一月から四月が春。五月が夏。六月から九月が秋。十月が冬。
冬でも雪が降ることはほとんどないが、日暮れは早く、寂しい季節だ。それが年越しを境に暖かくなっていくので、年末年始はめでたい時期だ。仕事を休んでのんびりしたり、親しい人とちょっとしたお祝いをしたりする。
そんな時期にボウが帰ってきたので、コバ家では土産話に花が咲いた。気になる女に振られ続けたという、あまり言いたくない話もボウは口を滑らせたらしい。
ボウは、今は仲間と別れて一人だし、しばらく実家でゆっくりするつもりで帰ってきたという。
そんなボウに、マアチはミーヤも連れてきて、一緒に魔物狩り屋として旅がしたいと頼み込んだ。
「酒場に行っても断られちまってよ!」
「だから私達、もっと魔法を練習したんだ! 魔法がものすごく使えれば、生理で休む日があっても、戦力として認められると思って! パーティに『入れてもらう』んじゃなく、『パーティを組む』ことができると思って!」
「でも、実戦経験がないと、やっぱ舐められるんだよ! だから兄貴、オレ達と一緒に旅をしてくれよ!」
酒場での経験の後、ミーヤとマアチはさらに熱心に魔法屋に通った。ミーヤは水の中級魔法をもっと洗練させていった。それから、回復の中級魔法も使えるようになった。マアチも、水は初級止まりだが、火の魔法が自分に向いていることがわかり、火の魔法を中級まで習得した。それから、初級の回復魔法も覚えた。
二人とも20歳になったら、もう一度酒場に行ってみよう。ミーヤとマアチはそう決めていた。ミーヤは十月生まれで、マアチは三月生まれだ。
十八歳の時は、外がまだ明るい、四月の夕の五刻前に酒場に行った。ミナミライの村からライの町へは、徒歩で半時限もかからない。時計の針が数字一つ進む『一時限』の半分だ。そして日が落ちる前には村に帰ってきた。
短い間しか酒場にいなかったし、相性のいいパーティがその時いなかっただけかもしれない。二人とも正式に酒場に出入り出来る歳になったら、もっとゆっくり探してみよう。そんな話をミーヤの20歳の誕生日にしていた。そのすぐ後にボウが帰ってきたのだ。
ボウは最初、渋った。男一人、女二人のパーティは難しいと。
そんな兄に、マアチが言った。
「初級学校が終わったら、魔物狩り屋になって旅をするんだって、ずっと思ってた。兄貴と同じように、オレもいろんな場所を見て回るんだって。兄貴が旅に出た後、オレに生理が来た。話に聞くより煩わしいし、普段通り過ごせない。
でも、ずっと旅を夢見てた気持ちを消したくないんだ。地元しか知らないで一生を終えるのは嫌なんだ」
ミーヤも言った。
「旅をして、色んな場所を見て、やっぱり故郷が一番だと腰を落ち着けるんなら、いい。でも、一度も外に出られず、遠くに憧れながら、ここに住むしかないと諦めて暮らす人生は、嫌だ。
話を聞くんじゃなく、自分自身で、外の世界を体験したいんだ。
ボウ兄さん、ちょっとの間でもいいから、私達と一緒に旅をして。
最初の一歩を踏み出させて」
ボウはしばらく考えていたが、やがて受け入れてくれた。
「ボウ兄さんが、わかった、って言ってくれたときは嬉しかったなあ」
宿屋のベッドで、ミーヤが目を閉じる。
「オレ達の説得だけじゃなく、母ちゃん達の言葉も効いたんだろうな」
マアチの両親は、マアチに似て元気なタイプだ。
「結婚して工場を継ぐってんならともかく、嫁候補も見つかってねえんだろ? おめえももうちょっと旅してこいよ! じっとしてても嫁は見つかんねえぞ? 俺も旅して母ちゃんと出会ったんだからな」
「あたし達はまだ元気だし、工場のことは心配要らないよ。で、ミーヤとマアチも連れてってやんな! 『かわいい子には旅をさせよ』って言うんだからね」
マアチの父親はマッチ工場を継ぐ前に、魔物狩り屋として旅をした。そして、食堂の娘だったマアチの母親と出会ったそうだ。性格が似ているので気が合ったという。
マアチは両親の性格を受け継いだが、ボウは物静かだ。寡黙にマッチ工場を運営していた祖父に似たらしい。
「マアチの所はざっくばらんだよね。うちはもう、あんまり会話がなくてさー」
ミーヤの父は、昔はもっと快活だった気がするが、母の死後はあまりしゃべらなくなった。ミーヤはしばらく、母方の祖父母と父の、四人で暮らした。初級学校に通う間に祖父母は相次いで亡くなったので、それから父と二人暮らしだ。
「旅に出るのを、応援はしてくれたけどね。『何事も、自分で経験してみるといい』って」
「ミーヤの親父さんはクールだよな。黙々と仕事こなしてさ。死んだじいちゃんみたい」
マアチの祖父母もここ数年で亡くなった。
祖父母がいなくなるのは寂しいが、天寿を全うしたのだと、マアチもミーヤも納得している。
リトゥの国では、平均寿命は80歳を越える。
人間が魔法を使えるようになってから、平均寿命は延びたのだそうだ。




