第一章 05 パーティ構成
05 パーティ構成
旅の魔物狩り屋になる。といっても、かなり心身が鍛えられた大人ならともかく、初級学校を出たばかりの若者が一人旅をするのは難しい。
町には『魔物狩り屋専用』と書かれた酒場がいくつかある。旅の魔物狩り屋が仲間を探すときに行く場所だ。町人が仕事を終えて一杯やる店ではないので、客は全て魔物狩り屋だ。店内では、客同士が自由に声を掛け合い、仲間を探す。
これは、酒が飲めないと厳しい。
一応、リトゥの国の成人年齢は20歳だ。飲酒もそこからと決められている。もっと早くから飲み出す者もいるが。
酒のおいしさがわからない子供は、本人の能力もまだ未熟だ。見知らぬ者と仲間になって旅をするにはまだ早い……。そう考える大人が多いので、仲間探しの場所は酒場なのだ。
20歳以下の若者は、まず学生時代の友人や親族などとパーティを組む。そして少しずつ魔物狩り屋として経験を積み、酒がおいしく飲める歳になったら酒場で新たな仲間を探す。というパターンが多い。
ボウも、最初は初級学校の者とパーティを組んだ。
ボウが初級学校を終えたのが十八歳。
同じように十八歳まで初級学校に通っていたのが、学校一の美人、と言われていた女だ。村がライの町からやや遠いのと、魔法屋にも頻繁に通っていたため、初級学校の勉強はゆっくりだったらしい。
他に、魔法がそれなりに得意な十七歳の男と、力自慢の十六歳の男。その四人で旅に出た。
一年後、魔法使いの男と美人がカップルになり、パーティは解散した。
ボウは十九歳になっていたし、二つ下の力自慢の男も体格が良かったので、二人で魔物狩り屋専用酒場に行ってみた。
男三人、女二人で、男の一人が病気で引退するから代わりを探しているパーティがあった。ボウ達はそこに入れてもらった。しばらく、男四人、女二人で旅をした。だが、パーティメンバーが多すぎると、魔物を倒しても取り分が少ない。それに、二組の男女がいい感じになり、ボウはあぶれた。
ボウは一人で、酒場で仲間を探した。今度は、『入れてもらう』のではなく、『パーティを組む』ことができた。
男四人のパーティで、しばらくは順調に旅をした。だが、やがて一人が、拠点にしていた宿屋の娘と恋仲になって抜けた。別の一人も、そろそろ故郷に帰って婚約者と結婚すると言い出した。
ボウはまた酒場でパーティを探した。何度かパーティを変えて旅をしたが、男女混合のパーティでボウだけカップルになれない、を繰り返した。
流石に疲れて、実家に帰ってきたのが二ヶ月ほど前だ。ボウは25歳になっていた。
「魔物狩り屋ってやっぱ、男が多いもんな。せめて男女半々だったら、兄貴にもチャンスがあったかもしれないのに」
マアチがため息をつく。
「ひと月30日で七日間生理だと、約四分の一だよね。てことは、女が四人いたら誰か一人は生理の可能性がある。生理前にも腹痛とかあって、体調不良が七日どころじゃない時もあるし。
女四人でパーティを組んだら、常に誰かが戦えない日かもしれない。だから女だけのパーティって見かけない。女が過半数のパーティもない」
ミーヤもうなずく。分数は初級学校で習ったので、こんな応用も出来る。
「七日間ずっと絶不調、って人は少ないにしても、生理中でも普段と全く変わりません、て人も少ないよなあ。突然ドバッと出てウッ、ってなったりさ」
マアチがベッドで座り直しながらうめいた。まさに今、そうなったらしい。
「生理が原因で、魔物と戦えない、または仲間のサポートに回るしかできない時期がある。そんな女の魔物狩り屋が、男より少ないのは当然なんだよね。仲間探しでもいい顔されないしさ」
ミーヤとマアチは、八歳から初級学校に通えた。五歳年上のボウと共に通学したからだ。ボウが旅に出る頃には二人は十三歳になっていたので、二人で町まで歩いた。
天気の悪い日は行かなかったし、魔法屋にも通いながらだったが、二人は十六歳で初級学校の勉強を終えた。
自分達も旅の魔物狩り屋になるんだ。初級学校に通いながら、ミーヤとマアチはそう決めていた。
だが、二人とも十五歳の時に、初潮が来た。十六歳になっても、まだ周期が安定せず、痛みが強かった。
今は旅にでるのは無理、と、ミーヤは水屋を、マアチはマッチ工場を手伝いながら過ごした。二人は村の農家でもアルバイトしながら、町の魔法屋に通った。
十八歳ごろには、生理がやや安定してきた。安定と言っても、マアチは痛みが減る代わりに出血量が増えた。ミーヤは、周期には幅があるが、痛むのは出血の初日だけ。という状態だが。
初級学校の知り合いは、すでに別の進路に進んでいた。ミーヤとマアチは、背伸びして魔物狩り屋専用酒場に行ってみた。
しかし、旅の経験もない女二人組を『入れてくれる』パーティなどなかった。生理の時に戦力にならないからだ。
「真面目に魔物狩り屋の旅がしたいパーティは、女が二人も増えるのは嫌がる。だからって、女遊びがしたいだけの男とパーティ組みたくねーしな」
マアチがため息をつく。
「男女混合パーティでも、四人のうち女一人、五人なら女が一人か二人、ってのがせいぜいだもんね。分け前が減るから六人以上のパーティってあんまりいないし。マアチと離れて知らない人だけのパーティに入るのも嫌だし」
ミーヤとマアチは、酒場でいくつかのパーティに声を掛けたが、全て断られてしまった。声を掛けてくる者もいたが、明らかに下心のある男だけのパーティだったのでこちらから断った。
そもそも酒場なので、治安がいいとは言えない。若い女二人だけで行く場所ではないのだと、酒場にはそれ以来、行っていない。
「兄貴は男だから一人で酒場にも行けるし、体格も良くて見るからに強そうだから、すぐに声がかかるんだよな」
「でも、お酒は好きじゃないんでしょ?」
「ああ。それに大勢で騒ぐより黙って筋トレしてる方が好きだから、酒場にはあんまり行きたくないって言ってた。でも、酒じゃなくて仲間探しが目的で、それが果たせてるからいいんだよ。
物理攻撃担当はパーティに複数いてもいいし、見た目でそれなりに強さがわかるもんな。魔法使いは、本人がどれだけ魔法が使えるって言っても、信じてもらえなきゃ意味ねーし」
「魔法を覚えてても、実戦でどれだけ役に立つかわからない、とか言われるしね」
二人は酒場でのことを思い出す。「魔法屋ではうまくやれても、実際に魔物と対峙したら泣き出すんじゃないの」なんてからかわれたりしたのだ。
「確かにあんときゃ実戦経験無かったけど! 今は兄貴と一緒に魔物退治してるし!」
マアチが当時のことを思い出して声を大きくする。
そう、酒場での経験で余計に、旅の魔物狩り屋になりたい気持ちが強まった。
だからボウが実家に帰ってきたとき、一緒に旅がしたい、と二人でボウに頼み込んだのだ。




