第一章 04 初級学校の後
04 初級学校の後
義務教育は初級学校だけなので、その後の進路は人それぞれだ。
もっと学問がしたい者は、中級や上級学校に進む。通いたい者が学費を払って学ぶ場所だ。
建築、料理、裁縫など、専門的な知識に特化した学校もある。
魔法を教える学校もある。
町には、一つくらい『魔法屋』がある。だが、本格的に魔法を学びたい者は、『魔法学校』に行く。
魔法の覚え方はこうだ。
『魔法を授ける能力のある精霊に、人間が、使いたい魔法を伝える。精霊は、精霊の力を使って人間の体にその魔法の発動のやり方を覚えさせる。徐々に精霊の手助けを減らし、人間自身の精神力で魔法を発動できるようにする』。
だが、魔法は簡単には覚えられない。人間の能力ではない力を扱うのだから。魔法に向いている者が毎日精霊の指導を受けても、軽く十日はかかる。
魔法屋で、初級魔法の指導を精霊に頼む場合、一日分は1,000テニエルが相場だ。この宿が一泊400テニエルだから、2.5倍だ。最短で習得出来ても、十日ならば10,000テニエル。まだ習得出来なければ、もっと代金がかかる。
魔法屋は、受付の人間に代金を払えば、精霊と一対一で指導が始まる。魔法を使うコツなどは、我流で覚えていかなければならない。
魔法学校には、精霊の他に、人間の教師がいる。教師達は、魔法が未熟な者にやり方を教えるノウハウを持っている。だから魔法屋より、早く魔法が習得できるという。
ただし、魔法学校は、学費が高い。入学から卒業までに数年かかるし、学費は一年で数十万テニエルと言われる。
それが払えない者は、町の魔法屋で一つずつ魔法を覚えるしかない。
だから、初級学校の後は、働き出す者も多い。
親の仕事を手伝う者、町や村の施設で働く者、そして、魔物狩り屋になって旅をする者。
魔物を倒せばお金がもらえる。山や森に行けば魔物は見つかる。弱い魔物ならば、体力のある若者が数人いれば倒せる。魔法や剣術などの専門的な知識があれば心強いが、なくてもなんとかなる。
そうやって金を稼ぎ、学費が貯まったら学校へ行く。もしくは、体力が衰えるまで魔物狩り屋として旅を続け、そこそこの金を貯める。それを元手に、商売などを始める。
初級学校を終えた時点で、自分の将来を決めている子供は少ない。親の家業を継ぐにしても、親が健在ならば急ぐことはない。若く体力のあるうちに、広い世界を見て回るのは良いことだと、『かわいい子には旅をさせよ』ということわざもあるぐらいだ。
それに、行動範囲を広げた方が、結婚相手も見つけやすい。
ミーヤの父も旅の魔物狩り屋だった。
ミナミライの村ではズゥ家が代々、水屋をしてきた。ズゥ家には男が生まれ続けていたが、ミーヤの母は一人娘だった。ミーヤの母は、女でも水屋を継ごうと水の魔法の訓練をしたが、生理が重かった。一ヶ月30日のうち七日寝込んだら、水の需要に応じきれない。
ミーヤの祖父は、水の魔法が得意な男を婿に迎えることにした。
だが、ミナミライの村やライの町だけで探しても、条件に合う者がいなかった。それに、相手にも選ぶ権利がある。
だから、「旅の魔物狩り屋で、水の魔法が得意で、水屋の婿になってもいいという男がいたら連れてきてくれ」と、村や町の知り合いに声を掛けまくった。やがて、ライの町に立ち寄った旅の魔物狩り屋と話がまとまった。それがミーヤの父だ。
「うちの親みたいに、旅の中で新たな出会いもあったんでしょ?」
ミーヤの言葉に、マアチはうなずいた。
「ああ。最初は初級学校のメンバーで、何度かパーティは変わったらしいんだけど」