第二章 15 魔物とは
15 魔物とは
ミーヤとマアチはボウの所に戻った。
「お待たせ。ボウ兄さんは良かった?」
「うん。町で済ませたし」
ミーヤに荷物を渡しながらボウが答える。
「男はいざとなればその辺で出来るもんな」
そう言う妹にボウは反論する。
「不衛生だから野外ではやりたくないよ。そういう人が増えると山も汚くなるし、魔物と戦ってるときに人の排泄物踏みたくないし。俺だって昼飯の頃にはちゃんとそこのトイレに行くよ」
「悪ぃ悪ぃ、兄貴が外にいるから荷物持ってもらえるんだもんな。ありがとな」
「学校でも、トイレでしましょうって教わるもんね。トイレを管理してくれる人に感謝だね」
兄妹の、喧嘩とも言えない軽口にミーヤも混ざった。先生も言うし、教本にもあるよな、公衆衛生ってやつ、などと話しながら、ミーヤとマアチはリュックを背負い直した。
「さあ、山に入ろうか」
「うん!」
ボウが木の茂る中へ向かい、ミーヤとマアチも続く。
頭上を木々の枝が覆い、視界が薄暗くなる。これから、魔物を探すのだ。
魔物。読み書きの教本にも説明がある。
はるか昔、世界のエネルギーは『神』として人間の前に現れた。
神は人間に恵みを与えたが、恐ろしさも与えた。
人間は、神の力を意のままに操りたかった。
神は、世界のエネルギーを活発に循環させたかった。
神と人間は契約した。
人間は神を二つに分けた。
自分達の意のままになる『精霊』と、自分達に牙を剥く『魔物』に。
その時から人間は『魔法』を使えるようになった。
契世暦の始まりである。
続きの説明に、『魔物』の項目がある。
人間は人間の生活を便利にするために『精霊』を使う。『精霊』は常に好意的に人間に応える。なぜ常に好意的かというと、人間に対する敵意は全て『魔物』になるからだ。
『精霊』も『魔物』も、元は同じ。『神』として存在していた、世界のエネルギーだ。
人間が『精霊』をどれだけ使っても、『精霊』はいつでも人間に好意的だ。だが、世界のエネルギーの中に、同じだけのマイナスのエネルギーが、人間に対する敵意が溜まっていく。それが『魔物』となって現れる。
『魔物』は人間への敵意しか無く、人間を見ると襲いかかってくる。だが、町などの人間が大勢いる場所で発生しても、すぐに退治されてしまう。だから、森や山など、人間の生活圏ではないが人間の出入りのある場所で発生する。
そして、人間の気配が減るのに比例して強くなる。
人間の、自然に対する畏怖の念。暗闇や水場など、日常生活と違う場所での恐怖心。
それが、『魔物』という形で具現化する。
人間の生活圏から離れるほど、人間の心の奥底に、日常生活と違う場所に対する恐怖心が広がる。心に漠然と描く魔物の姿も大きくなる。
そうして『魔物』が出やすくなった場所は『魔物狩りスポット』と呼ばれる。魔物狩り屋は向かい、そうでない人は避ける。
魔物と戦う自信がなければ、『魔物狩りスポット』に近づくのはやめましょう。町の中ならば、魔物と出会うことはまず無いので心配要りません。教本にはそう書いてあった。
この山は、町からそこまで離れてはいない。魔物狩り屋もやってきやすい。だから山の浅い部分には弱い魔物が出る。山の奥に入れば、少し強い魔物が出る。初心者が行く『魔物狩りスポット』として理想的だ。
三人は山の浅いところで魔物を探す。
一緒に街道を歩いてきた魔物狩り屋達は、すでに見当たらなかった。もっと深い場所に行ったのだろう。あまり大きくない山とはいえ、他のパーティと遭遇しない程度の広さはある。
「早く出てこねーかな」
マアチが辺りを見回しながらつぶやく。ここ数日、魔物狩りが出来ていない。一人前になるために、早く戦いたいのだ。
「地道に探すしか無いよ」
ボウが辺りを警戒しながら答える。山に入っても、すぐに魔物が現れるとは限らない。遭遇するまで、歩き回って探すのだ。
「探し疲れる前に、見つけたいよね」
ミーヤが後ろを振り返りつつ言う。今が最も準備万端な時だ。トイレも済ませた後で、気が散る要素が無い。探すのに時間がかかると、隙ができやすい。
やがて、先の方で、自分達の足音とは違う、ガサガサという音が聞こえた。
「いたっ!」




