第二章 13 シャバシャへの道
13 シャバシャへの道
「……シャバシャか。いつか行ってみたいよね、徒歩でいいからさ」
ミーヤが街道の先を眺める。山は少し近づいたがまだ先だ。
街道の周りには、耕作や畜産をする小さな村がいくつもあり、畑や家が見える。三人の故郷、ミナミライの村と似た風景だ。
「行く? ライの町も一ヶ月滞在してるし、そろそろ拠点を変えたっていいよ」
ボウがこともなげに言う。
「行きたいけど……ミーヤ、体調はどうだ?」
マアチが振り返る。
「だいぶ楽……だよ。こうして魔物狩りにも行けるし。町を移動するなら生理じゃない時の方がいいけど、私とマアチ、両方が生理じゃない時って結構限られるよね。だから、もう何日かしたら二人ともちょうど終わってていいタイミングだと思うけど……休憩所ってどんな感じ?」
初めての場所へ行くのは、好奇心もあるが、不安もある。
「この街道だと、山を回り込んで北側に出た所に一つ目の休憩所があるよ。宿屋や食堂、貸馬屋があって、そこそこ賑わってる」
「宿屋の設備は? 風呂とか洗濯とかできる?」
マアチが尋ねる。
「今の宿と同じ感じだよ。町で高級な宿を使う人には不便かもしれないけど、俺達は町でも安宿に泊まってるから平気さ。高級な宿に泊まれる人は高速の馬車で移動するだろうしね」
「それで、毎日歩いて三日、か」
ミーヤとマアチが顔を見合わせる。行けるかな、行ってみたいな、という表情だ。
「宿代は毎朝、先払いだろ。よそへ行くなら、宿代を払う前に受付にチェックアウトすることを伝えるんだ。で、着替えとかの荷物を全部持って、鍵を返して宿屋を出る」
「ああ、あれ背負うの重いんだよな」
マアチがため息をつく。宿に置いてあるリュックには、着替えや生理用品などが詰まっている。かなりの量だ。
「あとは、今日みたいに弁当を買って、こうして街道を歩いて行けば、夕方には一つ目の休憩所に着くよ」
「今は身軽だけど、大荷物を背負って一日歩くのかあ」
ミーヤが思い出す。ミナミライの村からライの町の宿屋に移動するのは、半日もかからなかった。それに初めての旅でテンションが上がっていたので苦にならなかったが、旅の荷物は結構な重さがあった。あれで一日歩くのは、戦士系のボウには軽いかもしれないが、魔法使い系のミーヤやマアチには文字通り、荷が重い。
「……やっぱ馬車って便利なんだな。荷物持たなくていいんだもん。高いだけのことはあるぜ」
「でもお金は節約したいよね。徒歩でも、行けなくはないよ……多分。ちょっと疲れるかもしれないけど」
そんなマアチとミーヤに、ボウが言った。
「移動でかなり疲れるなら、毎日歩かなくてもいいよ。まず一つ目の休憩所に行って、しばらくそこを拠点にするんだ。一つ目の休憩所は山の北側にあって、山に行くのに一時限ぐらい。ちょうど、ライの町から山の南側に行くのと同じぐらいだね。だから魔物狩りも出来るよ。山のふもとで弱い魔物と戦うのも、場所が変わると雰囲気が変わるし。いざとなればすぐライの町に戻れるしね」
「そっか……それいいかもな」
「そうだね、あと何日かしたら私の生理も終わるはずだし、行ってみようか」
マアチとミーヤが顔を輝かせる。
「休憩所でしばらく過ごしてから、シャバシャまで行ってもいいしね」
「ボウ兄さんは、シャバシャにも行ったことあるんだよね」
「船がいっぱいあるんだよな。でも、兄貴は乗ってないんだっけ?」
ボウは顔を曇らせる。
「うん……だって俺、水、苦手だし……」
ボウは昔、溺れたことがあるのだ。あれはミーヤとマアチが三歳、ボウが八歳ぐらいの頃だったか。あの頃はミーヤの母も生きていた。ズゥ家とコバ家で、大きなタライに水を張って水遊びをした。だが、親達が三歳児に構っている間に、ボウが溺れかけたのだ。
「だから兄貴は魔法が苦手なのかなあ。オレも水の魔法は得意じゃないけど、水が怖いとかは思わないし。水怖い、が魔法全部怖い、になっちまったのかな」
「あんまり覚えてないけど、あれ以来、水遊びしなくなったよね。だからボウ兄さんは水に馴染みがないままなのかも。ミナミライの近くって、川も池も無いし。
畑用に、人工的に池を作る地域もあるって父さんに聞いたことあるけど、ミナミライには無いもんね」
「あのときもすぐに助けてもらったし、こうして元気だから、気持ちの問題だと思うけどね。泳ぐのと魔法で水を出すのってちょっと違うしさ。で、俺は魔法の代わりに筋トレを頑張ることにしたけど……やっぱり船には乗りたくないよ」
「無理に乗らなくてもいいんじゃね? 別の町ってだけで、オレ達には珍しいに決まってんだから」
「新鮮な魚が多いんでしょ? フルーエ湖の魚、ライの町にも来るけど、取れたてって訳にはいかないもんね」
「うん、魚料理はおいしかったよ」
そんな話をしながら歩いて行くと、やがて、分かれ道に着いた。山へ行く道だ。ここで街道をそれるのが一番行きやすいので、魔物狩り屋が皆、ここから山へ行く。だから道が出来ている。街道よりは細いので間違えはしない。
「街道をこのまま行くと休憩所だけど、今日は山だ。魔物狩り、頑張ろうな」
「うん!」
ボウの言葉に二人はうなずき、山への道を進んだ。




