第二章 09 二日目の夜
09 二日目の夜
三人は宿に戻り、しばらくくつろいだ。
ミーヤとマアチは、今日も早めに風呂に入った。昨日と同じように準備し、風呂場へ向かう。
昨日よりは遅い時間なので、今日は先客が一人いた。筋肉質な体の、戦士らしい女性客だ。宿に連泊する間に、何度か見かけたことがある。お互いに顔を見合わせ、軽く会釈をする。
ミーヤとマアチが脱衣所に着いたとき、女戦士は風呂から上がって着替えていたが、生理中のようだった。風呂の出入り口に一番近いロッカーを使い、股間にナプキンを挟んだ状態で体の水をぬぐっている。
あ、と思ったがミーヤもマアチも何も言わず、風呂に入る準備をした。やがて女戦士は脱衣所を出て行った。ミーヤとマアチは風呂の中に向かう。
「さっきの人、生理だったね」
シャワーを浴びながらミーヤが言う。
「ああ。今日始まったから早めに風呂に来たのかな? オレはようやく、ほぼ終わりってぐらいに少なくなったけど」
「私も、昼に伝い漏れしてからはあんまり出血してない。ほんとあのときだけ。よりによってなんで寝てるときにあんなに出たんだろ」
「嫌がらせみたいな出方ってあるよなー。オレも終わったと見せかけてまだ出るかもしれねーし」
しゃべりながら二人は、昨日よりは緊張せずに湯船に向かった。血が垂れることは無かった。
もちろん、先客の血も見当たらなかった。風呂湯は汚水分離液だし、洗い場に垂れても、風呂湯で流したのだろう。
二人は昨日と同じように体を洗い、風呂から出て、洗濯をした。
後は部屋でくつろぎ、寝るだけだ。
ミーヤは鞄から、手帳と鉛筆を取り出した。
分厚い日記帳などはかさばるので持ってきていないが、せっかく旅に出たのだ。簡単な記録は残しておきたいと、ミーヤは薄い手帳を荷物に入れていた。
一ヶ月30日の暦が十ヶ月、ちょうど一年分印刷されたシンプルな手帳。
昨日は体調不良だったので、昨日の分も鉛筆で書く。
二月十二日の欄に、生理初日、腹痛。
二月十三日の欄に、二日目、痛み無し、昼寝で伝い漏れ。
ミーヤは鉛筆をペンケースにしまう。宿帳へのサインはインクとペンで行うが、旅に持ってきたのは鉛筆だ。黒い芯を木で包み、小刀で削って芯をとがらせて書く。ゴムでこすると書いた物が消せる。初級学校の勉強もこの筆記具を使っていたのでなじみ深い。なにより、インクがこぼれる心配が無いのがいい。
ミーヤは荷物を片付け、しばらくのんびりした後、寝る準備を始めた。
「一応、夜用の大きいの、しとくか」
ミーヤは、30フィンクのホルダーとプレーン布を取り出した。
二日目の夜だから、まだ生理が終わらないことは確かだ。だが、今夜の出血がわずかか、伝い漏れする程度なのかは自分でもわからない。だから安眠するために大きめのナプキンを付けることにした。出血がわずかだった場合でも大きなナプキンを洗うという手間が発生するが、伝い漏れで最悪な気分になるよりマシだ。
「明日は久しぶりに魔物狩りなんだから」
トイレから戻ったミーヤは、目覚まし時計を朝の五刻にセットし、ランプを弱めて眠りについた。




