第二章 03 部屋の掃除や耳掃除など
03 部屋の掃除や耳掃除など
部屋のドアを開けて換気しつつ、はたきを掛け、床をほうきで掃く。部屋に小さな通気口はあるが、窓の無い小部屋なのでドアを全開にした方が空気の入れ替わりは早い。
朝起きてそのままだったベッドの乱れも自分で直す。枕やシーツなどは、受付に頼めば新しい物に取り替えてもらえる。だが宿代とは別に料金がかかるので、宿泊してひと月近くになるが頼んだことはない。まだ夏ではないし、大丈夫だろう。
ゴミを集めてちりとりでゴミ箱へ入れる。
各部屋に、小さなゴミ箱は置かれている。だが、部屋の中にある限り、回収はされない。ミーヤはゴミ箱を持ち、洗面所へと向かった。そこに大きなゴミ箱があるからだ。もちろん部屋を離れるので施錠して向かう。
各階の端にある共用のトイレ。『女』と書かれた入口の先には、鏡と洗面所が並ぶ小部屋がある。その奥に個室が二つ。
ミーヤは部屋のゴミを洗面所のゴミ箱に捨てる。このゴミ箱は宿屋が定期的に空にする。
部屋にゴミを溜めておくと不衛生だから、こまめに洗面所まで捨てに行った方がいいよ、と教えてくれたのもボウだ。
「戦いだけじゃないんだよな、魔物狩り屋として旅するって……」
そうつぶやきながら、掃除を終えたミーヤは洗面所で手を洗った。
「あ、爪も伸びてたんだ」
ポケットのハンカチで手を拭く時に思い出した。そろそろ切りたかったが、生理でやる気が出なくて放置していたのだ。
「よう、ミーヤ。どうしたんだ?」
同じくゴミを捨てに来たマアチが後ろから声を掛けた。
「マアチ。爪が伸びてるから切ろうと思ってたんだよね。掃除の前にやればよかった」
「ああ、爪って飛ぶもんな。……オレも伸びてんな。後で切ろ」
二人は笑い合いながら掃除道具を受付に返しに行った。
部屋に戻り、リュックを探って爪切りの準備をする。
衛生用品は専用の袋にまとめてある。千枚入り40テニエルの『お徳用ちり紙』を小分けに包んだ物や、十本10テニエルの房楊枝のストックをよけて、爪切りを取り出す。
爪切りは金属製で、指一本ぐらいのサイズだ。本体とつながっているヤスリは裏返すと斜めに立ち上がる。本体とヤスリを片手でつまむと、先端の歯がかみ合って爪が切れる。
「誰が考えたか知らないけど、便利な仕組みだよなあ」
ミーヤはちり紙を広げながらつぶやいた。ハサミの形状の爪切りもある。だが、利き手でない手でハサミを使うのはやりづらい。だから、ハサミ状の爪切りは200テニエルだったが、400テニエルの折りたたみ式の爪切りを買ったのだ。
ベッドに腰掛けて靴を脱ぎ、手と足の爪を切る。
「耳掃除もするか」
爪切りを片付け、ミーヤは耳かきを取り出す。細長い木製の棒で、先端がへら状になっている。シンプルな形状なのでこれは50テニエルだった。
ミーヤは耳掃除も済ませ、ちり紙に包んだゴミをゴミ箱に捨てた。
「さあて、ちょっと休憩しよ。……の前にトイレ」
ミーヤは背伸びをした。すぐにベッドに寝転がりたかったが、今は生理中だ。新しいナプキンを準備し、トイレで取り替えてからでないと寝転がれない。
掃除中も出血する感じはあったが、かなり減ってきているようだ。とはいえトイレでない場所でショーツを下ろして確認するわけにはいかない。
朝起きて、夜用のナプキンを、26フィンクのホルダーにプレーン布を挟んだ物に取り替えた。股間に血がべったり付いている感触はないので、プレーン布だけ取り替えればいいだろう。ミーヤはそう見当を付け、26フィンクの四角い布を取り出した。それと防水袋を持ち、トイレに行く。
推測したとおり、出血はそれほど多くなかったが、プレーン布だけでなく、ホルダーのゴムバンドにも血が染みていた。このぐらいなら我慢して、次のトイレのタイミングでホルダーごと替えよう、ミーヤはそう思い、プレーン布だけを取り替えて防水袋に入れた。
ミーヤは部屋に戻り、ようやくベッドに横たわった。