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生理痛でも冒険の旅がしたい!  作者: 御餅屋ハコ
生理痛でも冒険の旅がしたい! 第二章
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第二章  02 宿代や雨の日の過ごし方


  02 宿代や雨の日の過ごし方


 レインコートを振り払って宿屋に入ったミーヤとマアチは、部屋に戻る前に受付に行った。宿代を払うためだ。

 宿代は一日ごとに先払いだ。魔物狩り屋は宿に大きな荷物を残して魔物狩りに行くが、大怪我などで当日に帰れない場合もある。だが宿代が支払ってあれば、最低でも翌朝までは、宿屋が部屋の荷物を片付けることはない。それに先払いなら、魔物狩りに行く振りをして支払いをせずに逃げる者も出ない。

 宿屋には宿直室があり、従業員が泊まり込んでいる。夜中や早朝は受付のカウンターにいないが、宿泊客が起き出す頃には準備を始める。ミーヤとマアチが食事に出かけた時は不在だったが、今は受付に女性が一人いた。ミーヤとマアチは今日も泊まることを告げ、手続きを頼んだ。

 この宿の代金は一泊400テニエル。宿に泊まる最初の日には宿帳に名前を書くが、もう連泊してひと月近くだ。二人は代金さえ出せばよかった。

「あ、今日も暇だし、掃除道具借りようかな」

 マアチが思いつく。宿の従業員は、客の泊まっている部屋に勝手に入ったりしない。だから連泊していると部屋が汚れてくる。そういうときは受付に言えば掃除道具を貸してくれると、以前ボウに教わった。

「あっ、じゃあ私も……やろうかな」

 前回掃除したのは、雨で魔物狩りに出られなかった十日ほど前だ。あのときと違って生理なのでやる気はしないが、他に予定は無いし、掃除ぐらいはできそうな体調なので、ミーヤもうなずいた。

「こちら、お使いください」

 受付の女性は、宿帳に追記などをした後、掃除道具を二人に渡した。

 ほうき、はたき、ちりとりを持って二人が三階に戻ると、ボウも起き出していた。

「オッス、兄貴」

「おはよう、ボウ兄さん」

「おはよう。二人はもう、朝ご飯食べたんだ?」

 廊下で二人のレインコートに目をやりながらボウが言った。

「ああ、オレら早くに目が覚めちまってよ」

「で、掃除するんだ?」

 ボウは掃除道具にも気づいていた。

「まあ、暇だからな」

 マアチがうなずき、ミーヤが尋ねる。

「ボウ兄さんは、今日はどうするの?」

 ボウは寝間着ではないが、歯ブラシを持っていた。洗面所と自室を行き来して身支度をしている最中のようだ。

「雨だからねえ」

 ボウは窓の外に目をやる。窓は軽く開けられていた。風は無く、廊下に降り込まない程度の小雨だった。ミーヤとマアチが出かけるときは雨戸が閉まっており、廊下のランプも灯されていたが、その後で従業員が窓を開けてランプを消したのだろう。空は雨雲に覆われているが、朝なのでそこまで暗くはない。

「ちょっと武術屋でトレーニングしてくるかな」

 町には魔法屋の他に、武術を教える店もある。

 魔法は、精霊のいる施設で学ばないと使えるようにならない。だが物理攻撃は、我流でも一応はできる。

 しかし、弱い魔物なら石や棒きれでも倒せるが、強い魔物を倒すには、武器をきちんと使えた方がいい。

 武術屋はそのための施設だ。剣、斧、弓など、様々な武器の使い方を学べる。引退した魔物狩り屋が指導者になっていることが多い。

 十日間、弓だけをみっちり訓練するコース(高い)などもあるが、未経験の武器を短時間だけ試してみるコースもある(安い)。

 そして、指導者無しで、自主トレーニングをするコースもある。もちろん一番安い。

 武術屋は、町外れに大きめの建物を構えている。雨でも武術のトレーニングが出来るように、屋根付きの広い部屋が複数、作られている。

 自主トレーニングコースは、何の設備も無い広い部屋で、利用者が自由にトレーニングをするコースだ。指導者はおらず、自前の武器の持ち込みも不可。利用者それぞれが、自分の肉体一つで、走ったり腕立て伏せをしたりのトレーニングをする。つまり施設は広い部屋を貸すだけだが、雨の日は手持ち無沙汰な魔物狩り屋が多く集まるという。

 ミーヤもマアチも魔法担当なので行ったことはない。だがボウから聞いて、どんな場所かは知っていた。

「晴れならその辺を走るでもいいけど、雨だからね。男ばかりのパーティでも、雨の日はよく行ったよ。だから二人はゆっくり休んでて」

 今日も魔物狩りに行けないが、二人の生理のせいではない。雨で魔物狩りを休むことはよくあることだ――。

 ボウがそう気遣ってくれるのを、ミーヤもマアチも理解する。

「ありがとな、兄貴」

「行ってらっしゃい、ボウ兄さん」

「うん。じゃあね」

 ボウは部屋に戻っていった。

「ボウ兄さんはほんとに優しいな……いい人が見つかるといいのに」

 ミーヤがつぶやいた。いい人とはもちろん結婚相手のことだ。

「オレ達が魔物狩り屋としてもっと強かったら、兄貴、別のパーティに行っていいよ、って言えるけど……まだ難しいよな。とりあえず、今は掃除しようぜ」

「うん。魔物狩り屋として旅をすることに慣れて、早く一人前になろうね」

 マアチとミーヤはうなずきあい、自分の部屋に入った。


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