第二章 01 二日目の朝
第二章
01 二日目の朝
二月十三日、朝。
安宿の一室に窓は無いので、朝日は差し込まない。
朝日に起こされるのではなく、体が十分に睡眠を取ったので、ミーヤは目が覚めた。
枕元の時計はほぼ真下、朝の五刻辺りを指していた。出かける用事は無いのでこんなに早起きしなくてもいいが、経血が漏れていないか気になって、二度寝する気にはなれない。
ミーヤは体をゆっくり起こした。起き抜けの出血がドバドバ出てうめく。
ベッドから降り、光池のランプをひねる。防水布にも寝間着にも経血は漏れていないようだ。
トイレに行き、血がショーツにも漏れていないことを確認して安堵する。ナプキンを取り替えて防水袋に入れるだけで済んだ。もし血が漏れていたら、洗濯物が増えて朝から最悪な気分だったろう。
ミーヤは部屋に戻り、髪をとかしたり着替えたりして身支度を済ませた。早朝なので廊下の窓はまだ閉まっていたが、木の雨戸の向こうから雨音が聞こえた。
予想通り雨で良かった、とミーヤは思った。生理で休む予定なのに、晴れていたら申し訳ない気持ちになるからだ。
寝る前に外したナプキンと、今外したナプキンを洗濯場に洗いに行く。早朝なので誰もおらず、洗濯物も無かった。宿泊客がそれぞれの部屋に持ち帰ったのだろう。
部屋に戻ると、マアチも起き出していた。
「おはよう。早いね」
「おはよ。ミーヤの方が早いじゃねえか。オレも早めに寝たから目が覚めちまったよ。具合はどうだ?」
「まあまあ。普通にご飯は行けそう」
まあまあとは、『出血してるので平常時より調子は悪いが、腹痛などの最悪な状態ではないので、生理中としては悪くない体調』の意味だ。平常を0、腹痛をマイナス100とするなら、マイナス30から50くらい。マイナスも初級学校で習った。
「じゃ、もうちょっとしたら朝飯食いに行くか」
長い付き合いなので、『まあまあ』でマアチも理解する。二人はしばらく休憩した後、レインコートを羽織って宿を出た。
宿屋の近くには飲食店が複数ある。朝に営業する店、夜に営業する店と様々なので、真夜中以外ならどこかの店で食事が出来る。
朝やっている店はどこも、パン、サラダ、ハム、卵料理などのセットを50テニエルで提供していた。この宿に滞在してひと月近く経つので、近所の店の朝食セットは全て制覇している。だから雨なので一番近くの店に入った。
その店の朝食セットは、丸いパンに、レスタのサラダ、ソーセージと目玉焼き、という一種類のみだ。ドリンクは選べるので、ミーヤはカウォル茶、マアチはジオレンジュースにした。
「昨日はお腹痛かったけど、今日はちゃんと食べれる」
料理を口にしながらミーヤが言う。昨日の朝は、ぐずついていた生理がようやく始まり、店で食事をする頃に出血と腹痛がひどくなった。だから食事もそこそこに、宿に戻って痛み止めを飲んだのだ。
「腹が痛いと飯どころじゃねえよな。治ってきてよかったぜ」
「怪我じゃないのに治るってのも変だけどね。怪我の血なら回復魔法ですぐ止まるのに」
「ぐずぐずと何日もかけて出てくんのまじうざいよなー。まあオレの場合、全部の量が一度に出たら血の海になりそうだけどさ」
「根本的に生理がうざいんだよ」
とりとめの無い話をしながら二人は朝食を食べ終わった。支払いを済ませ、雨の中、宿に戻った。




