第一章 18 風呂上がり(その2)
18 風呂上がり(その2)
風呂を済ませたミーヤとマアチは自室でしばらくくつろいだ。
「お、兄貴おかえりー」
夕飯を済ませて戻ってきたボウにマアチが声を掛けた。
「ボウ兄さん、まだ雨降ってるの?」
ミーヤも部屋から顔を出し、ボウの様子を見て言った。宿の廊下の窓にガラスはなく、今は夜なので木の雨戸が閉められている。だから雨が降っているかは見えない。雨音はしないが、ボウはレインコートを手に持っていた。
「ああ、小雨だけどずっと降ってるね。ミーヤもマアチも、もうお風呂も済んだの?」
くつろいだ二人を見てボウは言った。
「おう。だって身動きとれねえんだもん。混む前に風呂、入っときたいしさ」
「私達の体調不良にボウ兄さんを付き合わせちゃってごめんね」
ボウは優しく答える。
「雨の日は俺だって魔物狩りを休みたいよ。雨はまだ止まないし、明日まではみんな休みって事でいいよね? 明後日には天気も体調もよくなるといいね」
「ああ、明後日にはオレはすっかり元気なはずだぜ! ミーヤはどうだ?」
「私も、明後日にはだいぶ楽になってるはずだよ」
じゃあ、今日と明日はゆっくり休んで、明後日に備えるって事で。そう話し合い、ボウは部屋に帰っていった。
「風呂上がりに干した奴、そろそろ回収しとくかなー? まだ乾いてはねーだろうけど……」
部屋のドアを開けたまま、マアチがつぶやく。
「そろそろお風呂も干す場所も混むもんね。私ももう一度ナプキン洗いに行って、前の奴を回収しようかな」
部屋と廊下の境目でミーヤが答える。洗濯物は紛失や盗難を避けるため、熱風である程度乾かしたら自室に持ち帰る方が安心だ。
「じゃ行くか。後は寝るだけでやることもねーし。今日は休日だもんな」
「ほんとに休日なら、楽しいことだけに時間を使いたいけどね」
二人は準備をし、洗濯場でナプキンを洗って干した。風呂上がりに干したナプキンと下着は半乾きだったが、もう回収しておく。
他の魔物狩り屋に遭遇はしなかったが、洗濯場に、自分達以外の下着が揺れていた。
女の旅人が、この宿に泊まっている証だ。
「私達も頑張ろうね」
「ああ」
ミーヤとマアチはうなずきあった。
二人は部屋に戻り、部屋のフックとハンガーに洗濯物を掛ける。
「そろそろ歯も磨いとこう」
ミーヤはリュックを探り、歯磨きの準備をする。
歯磨きは毎日するし、今朝、薬を飲むときにコップを使ったから歯磨きセットの袋は上の方にある。
袋にはコップと、『房楊枝』が入っている。木の枝の先端を叩き潰して房状にし、歯を磨けるようにした物だ。
房楊枝とコップを持ってミーヤが部屋を出ると、マアチも同じように出てきた。
「あ、マアチも歯磨きするんだ」
「ミーヤもか。忘れないうちにやっといた方がいいもんな」
二人は洗面所に並んで歯磨きをした。
「私はもう少ししたら寝るよ。おやすみ」
「そっか。じゃあまた明日な。おやすみ」
ミーヤは部屋に戻り、コップと房楊枝をリュックの上部に置いて乾かす。安宿でテーブルなどは無いので、自分の荷物が台だ。
それから一人で洗濯場に行き、さっき干したナプキンを回収する。あまり乾いていないが、朝までここに干しておくのは落ち着かない。
部屋に戻ってナプキンを干し直し、寝る準備をする。
リュックからコップをどかし、ゆったりした長袖長ズボンの寝間着を出して着替える。防水布は昼寝の時にベッドに敷いたままなので、生理用品入れからナプキンだけを出す。やや減ってきたとはいえ初日の夜なので、当然一番大きいナプキンを使う。
昼寝の時と同じ、30フィンクのホルダーにプレーン布を三つ折りにして挟む。トイレに行って装着する。外したナプキンは、さすがにもう洗いに行かないので防水袋にしまって明日洗う。
「今日は疲れたな……っていっても生理のことしかしてないけど……」
部屋に戻ったミーヤがぼやく。光池のランプのねじをひねり、ごく弱い明かりにする。
ベッドの目覚まし時計は左斜め下、夜の六刻ぐらいを指していた。普段なら寝るには早い時間だが、一応は夜だ。何をする気も起こらないし、もう寝てしまおう。
ミーヤはベッドに横たわる。早起きの予定はないのでアラームは掛けない。
自宅ではなく、旅先での初めての生理。腹痛と血の処理に追われて何も出来なかった。これがあと数日は続くのだ。
気が滅入ってくるが、痛みは治まった。明日は今日より楽になっているはず……一ヶ月後にはまた同じ事の繰り返しだろうけど……。そんなことを考えながらミーヤは眠りについた。




