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生理痛でも冒険の旅がしたい!  作者: 御餅屋ハコ
生理痛でも冒険の旅がしたい! 第一章
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第一章  15 宿屋の風呂(その2)

  15 宿屋の風呂(その2)


 宿屋の一階、『女湯』と書かれた扉の先。今は洗濯場でなく、風呂場に向かう。

 靴を脱ぎ、下駄箱に入れて、脱衣所の扉を開ける。

 女の魔物狩り屋は男より少ないので、宿屋の女湯も規模が小さい。定員は六人ほどだ。

 あまり広くない脱衣所に、鍵のかかるロッカーが六つ。今は誰も使っていなかった。

 ロッカーの隣には、かごの乗った台がある。『手ぬぐい、体ぬぐい、一人一枚』と書かれた布入りのかごと、『使用済み』と書かれた空のかごだ。

「誰もいないうちに入っちまおう」

 マアチが手ぬぐいと体ぬぐいを取りながら言う。

「うん。一番風呂だね」

 ミーヤもうなずいて準備をする。

 二人とも生理中なので、風呂の出入り口に一番近いロッカーを選ぶ。

 ロッカーに、借りた体ぬぐいと持参した着替え等を入れる。服を脱ぎ、たたんでロッカーにしまっていく。

 肌着類は風呂後に洗うのでひとまとめにする。ナプキンは脱いだショーツに付けたまま、シャツやブラジャーにくるんで見えなくする。

 ロッカーの鍵を閉め、手ぬぐいを持って風呂へ向かう。ナプキンを外した状態なので手早くやる。

 脱衣所同様、風呂場も大きくはない。

 金属の蛇口とゴム管のシャワーが、壁に五セット設置されている。湯船は、のびのびと入るなら三人が限界だろう。ロッカーがあるので六人までは風呂場に入れるが、満員だとかなり窮屈な思いをする。だから混まない時間に来たのだ。

 入口近くに木製の風呂椅子と風呂桶が積まれているので、一つずつ借りて蛇口の所に置く。これらは水をはじく薬品でコーティングされている。湯船と同じだ。

 壁と床はタイルで、シャワーのある辺りで壁が段になっており、備え付けの石鹸が載っている。

 二人はシャワーから湯を出し、体の汚れを落とす。石鹸で本格的に洗うのは後でやるので、今は湯を掛けるだけだ。

 ロッカーの鍵は紐付きで、手首などに付けられるが、他に人はいないし、手ぬぐいと共に、風呂桶に入れておく。

 かけ湯が済んだら、湯船に入る。

 経血は、水中では体から出ない。シャワー中なら、出ても排水溝に流せる。

 だから湯船や脱衣所への移動が一番気を遣う。かけ湯が終わったら、血が出ないことを祈りつつ、急いで湯に浸かりにいく。

 ミーヤとマアチは湯船に入った。風呂の床を眺め、血が落ちていないか確認して安堵する。

「あー、気持ちいい」

 私物の手ぬぐいで髪をまとめたミーヤが、ようやくリラックスして体を伸ばす。

「風呂に浸かってる間は血が出ないもんな。水が押さえつけてんのかな? 今だけはちょっとぼけーっとできるよな」

 マアチも二人しかいない湯船を広々と使う。

「血で周りを汚してないか、ずっと緊張し続けだもんね。ゆるんだ蛇口みたいに流れっぱなしではないけど、自分でも制御出来ないタイミングで突然出るから困る」

「そうそう、しかも何日もな! トイレに行ったときだけ出るとかさー、せめて自分の意志で出すタイミングを決めてえよ。オレは終わりかけだから楽にはなってきたけど、来月もまた同じ事の繰り返しだろ。月の四分の一もこんなに緊張して風呂入るの嫌だぜ。だからって月の四分の一、風呂にずっと入らないってのも嫌だけどさ」

「私も、周期が安定しないから、来そうで来ないって日も長いんだよ。今だって何日も前からナプキン生活で、風呂中に出血が始まってないか気にしながら入って、結局空振りで緊張が徒労に終わって、でもナプキン洗ったりはしなきゃいけなくて、そんな日々が何日もあった上にようやく本格的な出血だから、面倒な日々が月の四分の一どころじゃないよ」

 二人は顔をしかめてうなずきあう。

「だから女湯は狭いんだよな。兄貴が言ってた、男湯はもっとでかいって。女の魔物狩り屋が少ないからだよな」

「生理痛はもちろんつらいけど、痛くなくても、風呂入るのも一苦労だもんね。初級学校の友達も、女で魔物狩り屋になりたいって言ってるのは私達だけだった。地元を離れたい女子は、旅じゃなくて、綺麗な寮のある学校に行くって感じだったし」

「確かに、旅するのに生理用品はほんと邪魔なんだよな。ナプキンとか防水布とか洗剤とか、どんだけかさばるんだよ! ほんとはもうちょっと着替え持ってきたかったのに、リュックに入りゃしねーの。もっと身軽に旅がしてえよ」

「ね。だから女の魔物狩り屋は少ないんだ。……でも、いないわけじゃない。今もこの宿屋に、私達以外も何人かいるんだし」

 ミーヤは風呂の天井を見上げる。この上の階に客室があり、魔物狩り屋達が泊まっている。今、客室にいるかはわからない。だが、宿に連泊する間に、女の魔物狩り屋を何人も、見かけているのだ。

「そうだな。だから、オレ達だってやれないはずはねーよ! 慣れればもっとうまくやれるはずだ。頑張ろうぜ!」

「うん!」

 二人は笑顔でうなずいた。


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