第一章 13 雨の日の夕飯
13 雨の日の夕飯
雨はずっと降り続いていた。ミーヤとマアチは『撥水の魔法』のかかったレインコートを羽織り、宿の近くの飯屋に行った。飯屋の入口でレインコートを振れば水滴は全て落ちるが、荷物が増えて煩わしい。
昼食を食べ損ねたミーヤのために早く来たので、店は空いていた。ボウは宿に帰っていたが、夕飯は後で行くと言うので二人で来た。
木のテーブルと木の椅子。四人がけの席に着き、レインコートを横の椅子に置く。
卓上には厚紙に書かれたメニューと、木筒に入った金属のスプーンやフォークがある。
「すいませーん」
マアチが店員を呼び、注文をする。
ミーヤは野菜炒め30テニエル、小さめのパン10テニエルを頼んだ。
マアチはベーコンと野菜のパスタ、80テニエル。
料理を頼んだ人はサービスで温かいお茶がもらえる。
「あー、あったまる」
陶器のコップに入ったお茶を飲みながらミーヤがつぶやく。
本物の『茶の木』から作られた茶ではない。『カウォルの木』から作られた『カウォル茶』だ。
カウォルの木は茶の木に似るが、茶の木よりも生長が早く、葉がたくさん生えるため、茶の木の代用として栽培が広まった。だが樹皮を刻んで葉とともに蒸すと香りが強くなることが判明したため、今ではそれが『香茶』として広く飲まれている。
ミーヤが今飲んでいるのは、樹皮の入っていない、一番安い『カウォル茶』だ。匂いはほとんど無く、味もわずかだが、喉を潤すにはちょうどいい。
やがて料理が運ばれてきた。
「いただきます」
木筒からスプーンやフォークを取り、陶器の皿に入った料理を口に運ぶ。
「おいしい。どっちにもニオニンがいっぱい入ってるね」
ミーヤが皿を見比べながら言う。メニューには『野菜』としか書かれていなかったが、ミーヤの皿には、ニオニン、カプリパ、ロキャットが、マアチの皿には、ニオニン、キャツベが入っていた。
「うちの村のじゃね? いっぱい育ててるし。日持ちはするけど、遠くまで運ぶより近場で食っちまった方がいいもんな」
ミナミライの村は、野菜を育て、近隣に売っている農家が多い。
畑が一番多いのは、ニオニン。ニオニンは丸くなるネギの一種だ。茶色い薄皮を何枚も剥くと、白い可食部が出てくる。生で食べると辛いが、刻んで加熱すると甘みが出てくる。
次に多いのが、カプリパ。カプリパは、赤、黄、緑に紫など、実の色が多様な野菜だ。他にも、太く赤い根のロキャット、葉が丸くなるキャツベなど、色々な野菜を育てている。
実家が農家ではないミーヤとマアチも、畑仕事のアルバイトを何度もやった。
収穫した野菜の行き先は、最寄りのライの町が一番多かった。
「村で野菜はたくさん見てたけどさ、こうやって、町のお店で、料理になって出てくるんだ、ってわかると、誇らしい気持ちになるよね」
ミーヤはそう言い、野菜炒めの最後の一切れを口に入れた。
「そうだな。この麺とかベーコンも、どこかで誰かが作ったから、今ここにあるんだよな。村の外で生活してみて、初めてそういうことを考えるようになったぜ」
マアチもうなずいて料理を全て食べる。
「やっぱり、旅の魔物狩り屋になって良かったよね。いろんなことに気づけるもん。……まあ、言うほど旅してないけど」
ミーヤの言葉に、マアチも笑う。
「近所だもんな、ここ。でも、近所でさえ新しい発見があるんだから、もっと遠くの町に行ったら、もっといろんな物が見えるはずだぜ。早く別の町にも行ってみてえよな」
「うん……そのためには早く生理が終わってくれないとね」
ミーヤは腹を押さえた。もう痛みは無いが、ナプキンに血がべっとりついている感触があり、気持ちが悪い。
「明日までゆっくりして、明後日に備えようぜ。雨も止むといいな」
二人はうなずき、食事を終えた。カウンターでそれぞれの代金を払い、宿に戻った。




