第一章 11 一眠りから覚めて
11 一眠りから覚めて
宿屋の一室に窓は無い。明かりは『光池』のランプで得る。
『光池』は、指サイズの角柱に、光の精霊の力を溜めた道具だ。池から水をくみ出すように、光を少しずつ放出させて使う。
『光池』のランプは、木箱とガラス瓶が合体した形だ。木箱内に『光池』を入れ、ねじ状のスイッチをひねると『光池』の光がガラスに満ちる。ねじの傾きで明るさが調節できる。
ランプには取っ手があり、壁のフックに掛けて部屋の明かりにする。ランプを手元に置き、光を弱めてベッドライトとしても使える。
部屋に帰ったミーヤは、ランプを柱に掛け、光をごく弱めてベッドに行った。朝でも夜でも部屋を閉めると真っ暗になるので、ランプはいつでも少しは光らせておく。
ミーヤが目を覚ましたとき、部屋の様子は同じだった。だが、廊下から雨の音が聞こえる。
「結局、降り出したのか……」
つぶやきながら、ミーヤは枕元の目覚まし時計に手を伸ばす。アラームはセットしていないが、時刻は合わせてある。
一本しか無い時計の針は、右を指していた。昼の三刻ごろ、昼食と夕食の中間の時刻だ。
「うわ、半日寝てたの!?」
ミーヤは体を起こし、経血がドッと出る感覚にうめいた。
ベッドに入ったのは朝食の後だから、朝の七刻、学校が始まる時刻ぐらいのはずだ。
「寝過ぎー……。生理んときってほんと、眠くなるしだるくなるし、いいことなんもない……」
ぼやきながらミーヤはベッドから降りた。経血は漏れておらず、防水布もズボンも無事だった。
新しいナプキンを準備して、トイレに向かう。
廊下の窓から、雨が降っているのが見える。日暮れ前だが、雨なので薄暗い。窓ガラスがないので、廊下に少し雨が降り込んでいる。今日は早めに宿の人が窓を閉め、廊下の『光池』のランプを灯していくかもしれない。
トイレでナプキンを取り替える。大きいサイズにしておいて正解だった。
防水袋を持って廊下を戻っていると、隣の部屋が開いてマアチが顔を出した。
「お、やっぱミーヤだ。起きたのか」
「うん、めちゃくちゃ寝ちゃったよ」
「生理んときって眠くなるよな。痛みは?」
「もう平気。薬が効いたか、たくさん寝て痛い時期が過ぎたかな」
体はだるいままだが、痛みは消えた。長時間寝たので、頭もすっきりした。
「朝からずっと寝てたんなら、昼飯食ってねーの? 早めに夕飯行くか?」
「うーん……食欲はあんまり無い……でも食べなきゃね。ナプキン洗って休憩したら行こうかな」
「まだ雨降ってるしな。オレもまた洗濯しとこ。その間に雨が止むといいけど」
「じゃあ、下行こうか」
二人は部屋に戻り、洗濯の準備をして一階へ向かった。




