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告白

 ハマった。完全にハマった。潮朝陽に。推すしかない。

「お疲れさま、もう里奈を下していいよ。」

着替えた朝陽が現れた。もう客席には誰も残っていなかった。ステージでは撤収作業が行われていた。

「朝陽、お前、かっ……」

それ以上、言えなかった。カッコ良かったよ、と自然に言おうとしたのに。朝陽は抱っこバンドのバックルを外し、横の椅子に里奈を寝せ、おむつを取り替えた。そして何やら飲ませている。赤ちゃん用のコップで。

「お前、よく育て方を知ってるよな。どうやって知ったんだ?」

「母ちゃんに教えてもらったんだよ。姉ちゃんの葬儀の時に鳥取に行ったからさ、その時。」

片づけを済ませると、朝陽は自分で里奈を入れた抱っこバンドを装着した。

 2人で、もとい3人で外に出て、しばらく目黒川沿いを歩いた。天気が良く、気持ちが良い。

「お葬式は鳥取でやったのか。」

「そう。ご遺体を霊柩車で運んでもらったの。知ってる?霊柩車って高速道路も走るんだよ。」

朝陽に言われて、そういえば高速道路で霊柩車を見かけた事があるのを思い出した。

「姉ちゃんさ、妊娠した事を家族に言わなかったんだ。生まれてから報告してきて、そりゃあびっくりしたよ。」

朝陽の姉は、何故妊娠した事を言わなかったのだろうか。結婚できない相手との子供だから、か。どんな相手だろうか。やっぱり……不倫だったのだろうか。

「これからさ、休日にダンスの本番とか、練習がある時には俺が里奈の面倒を見るよ。ベビーシッターは勿体ないだろ?」

そう切り出すと、朝陽はポカンとした表情で見つめてきた。

「え、なんで?」

「だって……その、気に入ったというか……好きになっちゃったというか……ハマったというか……」

言葉を濁していると、

「ちょっと、里奈はダメだよ。里奈の事は…」

「おいおい、何を言ってるんだ。いくら女の子に興味があるとしても、赤ん坊にそういう感情は起こさないだろう?」

「じゃあ、なんで?」

「里奈じゃなくて……だから、朝陽に。」

「ん?」

「だからぁ、朝陽のダンスにハマったから!俺は、朝陽の事が……好きになったから。」

これ以上言わせるな。朝陽は立ち止まった。合わせて立ち止まる。

「あーう。」

里奈が一言、大きく声を上げた。思わず噴き出した。拍子抜けする。今、真剣に愛の告白をしているのに。朝陽もクスクスと笑った。

「俺、面倒くさいでしょ?」

笑いながら、上目遣いで言う朝陽。

「いや、そんなことはない。俺がお前の面倒も、里奈の面倒も見る。絶対に幸せにするから。」

「え、プロポーズなの?」

「そう、おおかた、そう。」

だが、朝陽は本気にせず、相変わらずクスクスと笑っていた。

「とりあえず、今夜もいい事しようか。今日のお礼も兼ねて。」

朝陽が軽い口調で言った。

「そんな、お礼とかじゃなくて。」

言いかけたが、やっぱりとりあえず「いい事」はいただいておこうと思い、口をつぐんだ。


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