八十六話 恋 一
ギフトを貰えた時は素直に嬉しかった。貰えるか貰えないかだと、私は貰えない方だと思ってたから。
だからはしゃいじゃったのよ。見せびらかすようにそのギフトを使っちゃったの。
【透心】。心を視るギフト。
全部が全部視られるわけじゃないし限界はあるけど、大体どういう感情なのかとか、強く想ってる事なら結構あっさり読み取れちゃう。そういうギフト。
最初は楽しかったわ。その人が隠してた事だったり、本音だったり、恋心だったり。秘密を覗き見れるのは快感だった。自分が特別な人間になれた気がした。
でも、それも長くは続かなかった。相手の心を盗み視る。その重さに気づいた頃にはもう遅かった。
最初は凄い凄いと反応してくれたら周囲も、少しすれば私から距離を取りたがるようになったの。今思えば当然よね。心の内を視られたがる人なんてそう居ないわ。
当時の私もそれには気づいてた。だからギフトはもう使わないって宣言したの。
でもね、このギフトの厄介なところが周りからは使ってるかどうかが分からない事なのよ。本当に使ってなくても、周囲からはそれが本当か分からない。
今まさに心を視られてるかもしれない。そういう疑念が一度生まれれば、使ったか使ってるかどうかなんて関係無いわ。
それでまあ、どんどん住んでた町で孤立しちゃってね。それでも両親含めて仲良くしてくれた人は居たんだけど、そういう人が内心ではどう思ってるかが気になって、使わないって決めてたギフトを使っちゃったり。それで思ったのよ。もうここには居られないって。
我ながら衝動的で、若かったわ。私の事を何も知らない新天地で、一からやり直したい。その思いで生まれ故郷を飛び出したわけ。
で、早速現実にぶち当たったの。十五にも満たない子供が一人で生きていくのはそう簡単な事じゃないって事に。
だから結局、生きていく為にギフトを使うしかなかった。心を視れば初対面の人間との関わり合いが楽になるし、関わるべき人間とそうでない人間の判別にも便利だったの。もちろんギフトの存在は明かさずにね。
実際にその人がどういう言動をするのか、どういう表情をするのかを確認して、答え合わせみたいに心を視る。そして最適に立ち回る。
私がこれから生きていくとすれば、そうしていくしかないって思ったの。
実際それは正しかったわ。お金を稼ぐにしても、物を買うにしても、絶対にどこかで人間は関わってくる。そんな人間への理解を深める事は、生きていくのに必要なモノへの接し方を学ぶのと同じ事だもの。
――そうやって色んな人間と関わって、色んな国や街に流れて、何とかその日を生きていく中で、最終的に流れ着いたのがムラクだった。




