八十三話 それでも
勇者の中である程度の理解は進んでいた。恐らくこの女はカイナと顔見知りであり、ギフトを通して自身を見ていたのだと。
「私のギフトはね……心が視えるの。とは言っても隅々まで視える訳じゃなくて、その人が今一番強く思ってたり、考えているモノがメインに視える。他にも多少は視えたり感じ取ったりはするけど、そこまで便利な代物じゃないわ」
「それで、カイくん越しに私を知ってたって事」
「ええ。それにアナタの心も視えるわ。びっくりするくらいに鮮明な、カイナの顔。それで分かったの。これはカイナの為にやってるんだってね」
謎は解けた。その時点で好奇は晴れ、攻撃を再開し対話を終わらせても良いはずだった。
しかし、勇者の中には新たな好奇が生まれていた。
「……」
「気になる?どういう時にカイナがアナタを思い浮かべていたか。どういう気分でアナタを思い出していたか」
恐怖か、それとも愉悦からか。女は笑みを引き攣らせ、一言を一言を染み渡らせるように語ってみせた。
「カイナはずっと思い悩んでいた。何かに引っかかっていた。忘れた、もういいと言いながら割り切れていなかった。……アナタの事よ。食事をしてる時、お酒を飲んでる時、ふとアナタの顔が視えてくる。そういう時のカイナはいつにも増して陰鬱で、気怠げな顔をしていたわ」
「……」
「アナタがカイナにとって何だったのか、詳しくは知らない。でもねえ、今のカイナにとってアナタは汚れなのよ。拭って拭っても消えない汚れ。そんなアナタが、彼の為に何かをする?冗談。それってただの自己満足なんじゃない?」
嘲笑するかのようなその言葉を、勇者はただ黙して聞いていた。そして……笑った。
「知ってるよ。あの時、カイくんは私を殺さなかった。私を許してくれたと思った。でもそれはきっと、私の全てを許した訳でも、もう良いって思ってる訳でもない。まだなりたいって思ってる筈なんだ。勇者に。憎んでる筈なんだ。勇者になってしまった私を。そんな私は、確かにカイくんにとって汚れかもね」
先程から途切れず、女の視界に映り続けるカイナの姿。女は悟った。この程度では揺るがないと。
「自己満足っていうのも考えた事があるよ。勇者にはなりたい、でも私なんかの手で勇者になる事を、カイくんは嫌がるかもしれない。あの時許してくれたっていうのもただの思い込みで、本当はもう私がカイくんに関わる事自体をやめた方が良いかもって」
色濃く、圧倒される程のイメージの鮮明さ。保とうとしていた笑みが、自然に崩れていくのを女は感じていた。
「それでもやるしかないんだよ。たった一つだけの、私のやりたい事だから。……ありがとう。お陰で、絶対にやり遂げないとって思いが強くなった」
――ああ、死ぬな。勇者の掌から光が溢れていくのを見て、女は直感した。
それでも、簡単に死んでやるつもりはない。今まで見た事が無いほどの強い想い。それを前にしても、己の反骨心がまだ消えていない事を自覚しながら、女は笑みを作り直した。
「知ってる?カイナってね……ベッドの上だと意外と優しくて丁寧なの」
「そう」
光が、一帯に溢れた。




