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七十八話 黄金色の日々

「あっ、勇者様!」


 王城の中庭……柔らかな陽光が差し込むその場所に、勇者様は居た。


 周囲で訓練を始めようとしている兵士達とはどこか隔たれたような立ち姿に、思わず息を呑む。


 その間にも勇者様は私の声に応え、薄っすらと汗に濡れたどこか大人びた笑顔を見せた。


「おはようアスリヤ。良い朝だね。……あのさ、前々から思ってたんだけど、勇者様って呼び方はやっぱり止めない?」


「? 何か問題があるのでしょうか」


「様付けがやっぱりむず痒いし、出来るなら名前で読んでほしいよ。公的な場面ならみんな勇者って呼んでるからそれでも良いけどさ。私なんて、別に偉くも何ともないんだから」


「勇者様のご希望には応えたいのですが……これは私にとっての敬意の現れなのです。私にとって貴女は、それほど偉大です」


「大げさだなあ。歳も同じくらいなのに。私だってまだまだ子供だし、学ばないといけない事だってあるんだよ?」


 知っている。だからこそ、敬意を抱くのだ。


 私と歳はそう変わらない。なのにこの人は、誰よりも自らの足で立っている。


 勇者という責務の重みに負けず、周囲の理想に応え、それでいて心を乱す事も無い。


 どこか遥か遠くを見据え、それを為す為の鷹揚さと視野の広さを既に備えている。この人には確固とした()()があるのだ。


 だから行動に迷いが無い。自然と自信に満ち溢れた所作になる。


 軍に入隊してから正式に勇者一行の候補に至るまで、そんな姿を幾度と見てきた。


 強く、高潔で、揺らがない。


 勇者様は私にとって理想の()であり……憧れだった。


「相変わらず鍛錬には余念が無いですな」


「あ、二人も来たんだ」


「我々も見習わねばならん。なあ、マクーレよ」


「ふむ、私はサフィ殿に負けず劣らずの鍛錬を己に課しているつまりではあるが……もしやタイヨウ、貴様は違うのか?」


「なっ、そこで梯子を外すとは……今のは気概の話であってだな」


「――ははっ!」


 勇者様は楽しそうに、さっきとは少し違う年相応の笑みを見せた。私も釣られて笑ってしまう。


 勇者様、マクーレさん、タイヨウさん、そして私。四人の勇者一行。


 いずれ来る戦いに向けて、どうしても払拭しきれない不安はある。それでも勝てると思える。私達ならば。――勇者様ならば。


 この黄金色に輝く日々の記憶が、きっと私達を支えてくれる。

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