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七十五話 起源 四

 勇者としての日々はただひたすら面倒で、苦しくて、煩わしかった。


 魔王と戦う為の基礎的な訓練にギフトの把握と習熟。


 王城の人達との交流に、王都の人達にも定期的に顔を見せたり、大勢の前で話をしたりしないといけない。


 最初の頃は体力的にも精神的にも全く余裕が無くて、毎日倒れるように眠った。


 これは私のする事じゃない。私には向いていない。何度もそんな弱音を吐いた。でも諦める事はなかった。


 あの日の衝動と決意が、いつまでも私の中で燃えていた。


 一年、二年、三年と、月日が経つに連れて訓練も周囲の人達との交流も()()()()()


 みんなが求める理想の勇者。強くて、優しくて、元気で、誰もが疑わない。


 そんな人間になろうとするのではなく、演じれば良い。それに気づいてからは、多少は楽になった。


 それと同時に【交信】の習熟も進めた。隙間時間と寝る前に【交信】を使い、情報を集めながら神に繋がる感覚をより確かなモノにする。


 外から見たら寝てるようにしか見えなかったからか、眠りの勇者なんて呼ばれるようになったけど。


 ――そうして、大体の準備が整った後、私は最後にやるべき事の為にあるギフトを使った。


【未来】。たった一度、私が望む未来を実現させるギフト。


 ……なんて、聞こえは良いけどこのギフトで実現させられる未来は限られてる。


 このまま道を歩けばどこかで出会うかもしれない、すれ違うかもしれない。そんな可能性を無理矢理に手繰り寄せるのがこのギフトだ。だから大それた未来は実現出来ない。


 私のやりたい事は、こんな小細工では叶えられない。もっと根本的に全てをひっくり返す必要がある。


 だからこのギフトは私が全てを始める前に、()()()()()()()()()()()()()使ってやった。


『なんで、お前がここに』


 ギフトは確かにその未来を叶えてくれた。久しぶりに会ったカイくんは昔よりもっと大きくなってて、落ち着いた雰囲気で、大人の顔付きになってた。


 少しの間だったけど、そんなカイくんと話して、一緒に歩く事が出来た。


 私にとってはそれだけで良かった。飛び上がるくらいに嬉しかった。このままずっとこうしていたいって思ったりもした。


 でも、私はただ会う為だけに【未来】を使った訳じゃない。一番大事なのは確認だった。


 きっと、カイくんはまだ私に怒っている。なんでお前が勇者なんだって。


 私はそれを受け入れるつもりだった。もう、あの日みたいにギフトが勝手に展開される事はない。


 カイくんが殴りたいというのなら殴られるつもりだったし、罵声を浴びせたいのなら聞くつもりだった。


 殺したいというのなら、殺されるつもりだった。


 私が死ねばカイくんを勇者には出来なくなる。でもカイくんがそれを望むなら、何が何でも私を殺したいほど怒って、憎んでるのなら、それも仕方がないって思った。


 ――でも、カイくんは私を殺さなかった。


 嬉しかった。許してもらえたんだと思った。目的を達成する為の少しの間だけ、私が私の意思で動く事を。


 ……そして少しだけ、悲しかった。


 ナイフを手に私を見つめるカイくんの目は、あの日と同じどこか力が抜けてしまったような目だったから。


 ――だから、全部戻す。神も、魔王も、ギフト持ちも、魔物も。全部を使って全部を戻して、カイくんが勇者で私はなんでもない世界にする。


 世界を――時間を、巻き戻して。

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