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七十三話 起源 二

 十歳の時だった。私の人生が歪み始めたのは。


 十歳。子供にとっては大事な歳。ここでギフトを貰えないのか貰えるのかが決まってしまうからだ。


 周囲はその事で持ちきりだった。こういうギフトが良い、ああいうギフトが良い。とにかく一つでも貰いたい。


 私は何一つ共感出来なかった。そんなものを貰っても何も嬉しくなんてない。


 宝の持ち腐れ、少なくとも自分の意志で有効に使える気はしなかった。


「俺は最低でも二つだな。一つは俺に逆らってきたヤツを一瞬で黙らせられるようなヤツが良い」


 カイくんは自分がギフトを貰うのは当たり前、そうに違いない。という感じだった。


 カイくんは私にギフトに関する話をする事がほとんど無かった。他の誰かに聞いていたようなどんなギフトが良いか、なんて質問もしてこなかった。


 多分、私がギフトを貰える筈が無いって思ってたからだと思う。何も言わない。その無言が私への期待の無さを表してた。


 そしてそれは、私自身も同じだった。何が欲しいか、欲しくないかという話以前に、貰える気がしない。


 それで良かった。カイくんと私の認識が重なりあったようで、少し嬉しかった。


 でも、世界は、神様は。とんでもないバカだった。


「……待て、これは……いやしかし、間違いない……」


 十歳の時、神殿の小部屋の中で神官が酷く狼狽えている光景は、今でも覚えている。その後に続いた言葉も。


「サフィ、良く聞きなさい。お前は――個のギフトを授かっている」


 何も言えなかった。嘘か冗談か、そう思ったけどそんな事をする理由はどこにも無い。


「これほどの力は……危険だ。キッカケさえあれば持ち主を容易く歪ませてしまうだろう。正直言って私の手にも余る。それに、今代の勇者は――」


 聞きたくなくて、両手で耳を塞いだ。


 ギフト。カイくんがたくさん欲しがっていたモノだ。


 勇者。カイくんが憧れていたモノだ。良く昔話を楽しそうに語ってくれたから知っていた。


 なのに――なんで私なの?


「……これだけの力を持つ子供が居ると、今の時点で世間に知れ渡れば碌なことにならないのは想像に難くない。それに幼い身体と心では確実に持て余す力だ。――時が来るのを待つべきか。勇者任命の神託。そのタイミングなら王都の権威ある者達へと穏便に委ねられる。幸い、この村にはトリプルであるあの子が居る。神託の予告が来たとしても、サフィに目が向く事は無い」


 その神官は、多分良い人だったんだと思う。私がどうすれば安全に、勇者になるまでの日を暮らせるかを考えていた。


「サフィ……私としては、現段階では君の力は隠すべきだ。秘密裏に使ったり、鍛えようとしてもいけない。時が来るまで。そうすれば、僅かな時間ではあるが今までのような日々を暮らせるだろう」


 今までの日々。カイくんの後ろにずっとついて行く、満ち足りた日々。


「サフィ――君はどうしたい?」


 最後に求められたのは、自由意志。私が持たないモノ。持ちたくなかったモノ。


 だからその質問には、いつも通り曖昧な返事を返すだけの筈だった。


 でもその時の私は。


『俺がギフトを貰って、その上で勇者になんかなったりしたら、もう魔王討伐は成功したようなもんだ。この村だけじゃない。世界丸ごと守ってやる。もちろんサフィ(お前)もな?――俺なら歴代最高の勇者にだってなれる筈だ』


 キラキラした目で前を見続けるカイくんが頭を過って、それが曇ってしまうのがどうしても嫌で。


「隠したい」


 そう、思ってしまった。


 ……この時の私はどうしようもなく愚かだった。自分の意思で何かを決めるなんて、慣れない事をしたばっかりに。


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