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六十七話 諦観

 破滅的な混乱だった。万を超える数の人間が不規則な波のように動く。


 倒れた者、その倒れた者に巻き込まれた者、周囲を押し退け逃げようとする者、自らのギフトを使って逃避を試みる者。


 それら全てが勇者が放った光弾によって血華と化していく。勇者が元居た王城のバルコニーもまた、既に光弾により血の海と化し、運良く被害を免れた人間も呆然としている。


 エルシャ最強は言わずもがな、ともすれば歴代最強の勇者であると讃えられることもあった存在が、自分達へとその力を向けている。


 誰も彼もが、その暴虐に反抗するという意志を持つ事はなく、それは争い事を生業としている彼らも同じだった。


「何が起きてんだよ!」


「わっかんねえよ!勇者がいきなり攻撃し始めやがった!」


「なんでだ!?」


「――聞け!傭兵共ぉ!」


 動揺する彼らの内、一人が怒号のような声量で一喝する。無精髭を生やした傭兵、ランドだった。


「今はとにかくこっから逃げるぞ!俺達傭兵だけで固まれ!周りの奴らは押し退けろ!俺達が動ける分のスペースを確保し続けるんだ!」


 混乱していた傭兵達はその言葉を聞き、反射的に寄り合い始め、自らが最も活きる位置へと移動する。何としてでも生き残るという意志と経験に裏打ちされたその過程に言葉は無い。


 思考を飛び越えた習性とも呼ぶべき行動。なし崩し的にリーダーとなったランドを最後衛に置き、傭兵達は周囲を押し退け離脱を図る。


「――【岩壁】ッ!」


 飛来した光弾に対し、ランドの足元からせり上がった分厚い岩壁が傭兵達を守る。


「……何なんだよ、クソッ!」


 光弾の威力自体は大した事は無い。恐らく強みであろう数も一極集中ではなく広範囲にばら撒いている現状では機能していない。対処出来る。


 そう分析をしながらも、ランドは思わず悪態をつく。酔いは既に覚めきっていた。


「いいか!光弾一発一発の威力は大したことねえ!俺がカバーしきれねえヤツは避けるか自分のギフトで何とかしろ!このままのこの攻撃が続くなら、逃げ切れ――」


「慣れてるね」


 周囲が生み出す騒音の中で、その声は不思議とランドの耳に届き、その視線を奪う。先程まで宙に居た筈の勇者が悠然と佇んでいた。


「おおおっ!【衝爆】ッ!」


 一人の傭兵が飛び掛かる。ギフトの発動の起点である掌を向け、勇者に触れるべく。それを皮切りに何人かの傭兵も動く。


 目を付けられた以上は逃走は不可能。ランドもそう判断し、勇者の背後を岩壁で塞ぐ。


 しかし、全ては無意に終わる。最初に飛び掛かった傭兵の攻撃は相手を目前にして阻まれる。


 無色透明の壁。触れる事すら許されず、彼の視界は宙を舞った。


「勘弁してくれよ」


 諦観の籠った笑みと共に、ランドは呟いた。

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