六十六話 開花
あー、ん、聞こえてるかな?今、声の大きさを拡大するギフトを持ってる人の協力でみんなに声を届けてます。
まずは最初に……ありがとう。急な呼びかけだったと思うけど、こうして集まってくれて。
そしてごめんなさい。私が行方不明って噂を聞いて不安を感じていた人もきっと居ると思う。
何で私が姿を消していたのかは、残念だけど今は言えない。でも良くない事が起こってるのは確かなんだ。
だから今日、こうしてみんなに協力して貰うことにした。大昔、勇者と大勢のギフト持ちが集まって祈ったって伝説があるんだけど、今回はそれと同じことをやる。みんなの力が必要なんだ。
年齢も性別も関係ない。どんなギフトでも構わない。この儀式はギフトを持っているという点と祈るという行為が重要。でもお祈りの際は気楽にやって欲しい。それぞれが思い浮かべる神様の姿に助けを求めてほしい。
そうすればさっき言ったことも魔王も、きっと無事に討伐できる。……勇者の名において、それは約束するよ。
だからどうか、みんなで祈ってください。世界の、そしてみんな自身の為に。私達にギフトを与えてくれた神様へ届くように。
☆
静寂が満ちている。その場から音そのものが消え去ってしまったかのような。
誰も彼もが祈っていた。天を見上げ、両手を組み、勇者の要請に応える為に。世界の平穏を祈る為に。己が身を案ずるが為に。
広場に集まった人々、王城にてそれを見下ろす人々も。
そして勇者自身も。その場の誰よりも真剣に祈りを捧げている――ように見えた。
「――うん、良い感じに繋がった」
ぽつりと。勇者はそう呟き、目を見開いた。
「ギフト持ちを大勢集める名目として、ついでぐらいの気持ちだったけどちゃんと意味はあったんだ。セリエナもこれを利用して何かをしたのかな」
「勇者、殿?」
その様子に、周りに控えていた兵士の一人が祈りを解き、思わず問う。勇者はそれに一瞥もくれず、バルコニーの外へと飛び上がった。
騒ぎ出した真下の兵士達を足蹴にするように、勇者は空を踏み締める。人々の天への祈りの視線を遮るように。
――直後、人々の視界が眩い光を捉える。続くのは破壊音、そして悲鳴。
勇者の手により放たれた光弾。それにより広場の一角に出来た巨大な赤い染みは、その瞬間に咲き誇った花のようだった。
誰からともなく困惑と恐怖が溢れ出す。
永い王都の一日は、今この瞬間に始まった。




