六十二話 欠伸 前
確かに美味い話だった。国が依頼人である分、内容を丸ごとひっくり返すようなことが起こるとは考えづらい上、ランドの見立て通りここまで大事ならギルドの連中が積極的に音頭を取る筈。とすればこれは二つの国にその確実性を保証された依頼だ。
危険は少なく見返りも大きい。ただ、引っかかる。見かけは美味いが故に。
「はっ、そりゃ警戒するわな。どれだけ安全に見えても話が美味すぎると気味が悪く思えるもんだ。……だが俺は、ここは乗るべきだと判断した」
「理由は?」
「勘だ」
「お前が賭け事に強いって印象は無いが」
何度か賭場でコイツを見かけたことがあるが、大抵唸り声を上げてる場面ばかりだった。図星を突かれたようにランドは髭面を歪める。
「う……ここで取り返すんだよ!ギャンブルってのは最後に勝ったヤツが正義だろ。で、そういうお前は?」
美味い依頼は早々来ない。だから受けられる時に受けておく。それが俺の流儀だ。その流儀にしたがって永雪域の依頼だって受けた。
だが。
「……今の所は受ける気は無い」
「へえ、意外だな……ってわけでもないか。ここ最近で稼ぎに稼いだんだったな」
「そういうことだ。しばらくは休む」
「余裕のあるヤツは違うねえ。まあ、さっきも言った通り依頼の本分は儀式の参加だ。つまり儀式が始まるまでは時間の余裕がある。しばらくは依頼もそのままになるだろうから、それまでは拒否せずに気が変わったら受諾してこっちに来ればいい。王都にゃ楽しい場所も山ほどあるからな。俺は依頼ついでに楽しむつもりだぜ。お前もどうせ休むなら、って軽い気持ちで受けても良いんじゃねえか」
ひらひらと手を振りながら去っていくランドの背を見ながら、再び考える。
流儀ではある。だがここのところ面倒事や依頼が続きすぎた。もうしばらくは休みたい。そう感じてるのは確かだ。
なら、それに従えばいい。流儀に縛られるのは本末転倒だ。一時の感情がその瞬間をどうしようもなく否定したのなら、それを肯定すべきだ。
それが、やりたいようにやるってことの筈だ。
「……帰って寝るか」
ごちゃごちゃと考えることすら面倒になって、欠伸を噛み殺しながら俺はその場を後にした。




