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五十九話 ある男の不安 後

 だから思うんだ。ソイツが勇者でも良かったんじゃないかって。まあ、こんな風に感じてるのは俺だけだろう。すげえ人気だもんな、実際の勇者は。お前も好きなんだろ?


 滅茶苦茶強いし、魔物退治にも意欲的。国のお偉いさんとも上手くやってるんだろうし、それでいて庶民にも気さくだ。街で兵士と歩いてるのを見かけて、声をかけてみたら反応して貰えたって、お前この前言ってたよな。そりゃあ人気も出るもんだ。理想の勇者、なんだろうな。アイツは。


 ――だがな、俺は怖いんだよ。魔物退治に意欲的?庶民にも気さく?誰だそれは。アイツはそんなんじゃなかった。常に受け身で協調性なんて無くて、何を考えてるのか何をしたいのか良く分からんヤツだった。


 ……実はな、最初に話した勇者になれなかった野郎と、勇者になったあの女は仲が良かったんだよ。いや、あれを仲が良かったというのは違うかもしれねえ。


 あの女はいつもアイツの傍らに居た。アイツもそれを当たり前のように受け入れてた。アイツが前を歩いてあの女がその後ろを付いて行く。アイツが何かを言ってあの女がそれに従う。いつの間にかそうなってた。思えば、あの野郎の偉ぶりが増していったのは、アイツらが二人で動くようになった時くらいだった気がするな。……ともかく、あの女が自分から何かをしたり言ったことなんて見たことなかった。


 そんな女が、まるで人が変わったように理想の勇者をやってやがる。いつからそうなったのか知らねえ。勇者になった直後あの女は王都に連れていかれたし、俺が王都に来たのはそれから時間が経ってからだからな。


 ……そうだな、確かに人は変わる。勇者になったてんであの女は変わったのかもしれない。所詮ガキの頃の話だ。王都に来て色んな人間と関わって、あの野郎のことなんてもう忘れててもおかしくない。


 ただ……思うんだよな。アイツらは妙な関係だった。でも奇麗に収まってはいたんだ。そんでそれは、あの野郎が勇者だったなら今もそのままだったように感じるんだよ。あの野郎が勇者でも良かったって思うのはそれも原因だ。そっとしとけば何事も無く済んだ流れが、明確に逸れちまったような。


 ……勇者が行方不明だって聞いてから、ずっとそんな感じがしてならねえ。何かが起こる、もしくはもうとっくの昔に起こってるんじゃないかってな。


 ――そうだな。杞憂であることを祈ろう。全ては俺の考えすぎだったで、終わるように。

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