五十七話 帰還
「賢者様の話を聞いてると、神様とか勇者とかに対する有難みみたいなのが消えていく気がするっス。アタシは元からそういうの薄い方だと思うっスけど」
「有難みなんて感じる必要はない。ギフトを与えられたことに対する感謝も、勇者に選ばれたことに対する名誉も、全て人間が勝手に特別だと捉え浸っている価値観でしかない。確かにこの二つは特別かもしれないが、否定したければ否定すればいいし、軽視したいのならすればいい」
「その二つに振り回されてる賢者様が言うと説得力があるっスね」
「だろう」
「アタシは自分のギフトに不満はないっスけど、くれるならくれるでもっと活かしやすい、ラクな生き方ができるギフトが良かったとは思うっス。アスリヤちゃんみたいな傷を癒せるギフトとか。アタシがこのギフトを貰ったのにも、神様からすれば何か理由があるんスかね?」
「与えられるギフトの数や性質が個々によって違うのは、それぞれの適正が――」
三人が話を進める中、俺は賢者のギフト持ちと勇者に対する擦れた考え方に、ある種の痛快さを感じていた。過去の自分が拘っていた価値観。それを丸々切り捨てられたように思えたからだ。
俺は傲慢だった。自分以外の全てを薄っすらと見下して、自分こそが特別だと信じていた。今はもうかけ離れてしまった、己の在り方。
――いつからそうだったのか。ふと生まれた疑問は、答えが出ることなく言葉の中に埋もれていった。
☆
賢者の案内を受けながらの帰還は行きに比べれば天地の差だった。寒さも雪も魔物との遭遇もない。何事も無く、俺達は短時間でニタがマーキングしていた出発地点へと帰って来た。
雪と剥き出しの地表の境目。人通りなど滅多に無い筈のそこにあったのは、人影。
「アスリヤ様っ!ご無事でしたか!」
「貴方は……」
人影の正体は兵士だった。それも、どこか見覚えのある。
「自分はアスリヤ様の帰還を待つ為にこの周辺で待機していた次第です。こうしてすぐに合流出来たのは幸いでした。王都から貴女へ至急、至急伝えなければならない情報があるのです」
「分かりました。聞きましょう」
「勇者様が――王都に帰還しました!!」
☆
始まるのか、再開なのか、終わるのか。正しい言い方は分からない。だがこの時にはもう、目の前に近づいてたんだ。
アイツともう一度向き合う、その瞬間が。




