五十四話 地下道
不思議なほどに堅牢に作られた、石造りの地下道。賢者が示した地下とはそれを指していた。
曰く、この地下道は永雪域全体に根を張るように広がっていて、俺達が遺跡と呼ぶ建物とその残骸に繋がるように作られているらしい。
「いやー、それにしても運が良かったっスよねえ」
松明に照らされた道をひたすら歩く中、調子を取り戻したのが窺えるニタの気楽な声が響く。
「探していた相手が向こうから来てくれた上に、こんな便利な道の案内までしてくれるなんて。流石は賢者様っス」
「そうか」
それに対し先頭の賢者は受け流すように応え、左右に分岐した道の内の右を選び、俺達を先導する。
――賢者と会うという目的を早々に果たした俺達が次に目指すべきは当然、帰還だった。これ以上永雪域に用は無い。
結果としてアスリヤは自分が望んでいたような話を聞けなかったのだろうが、だからといってここに留まっても意味はない。アスリヤがある程度復調してからすぐに帰還する。それで話はすぐにまとまった。
そしてまとまった話の中には、賢者が俺達に同行するというモノもあった。
『私の考えの証明と確信。その為に、失踪したという勇者を直接この目で見たい。出来れば対話も試みたい。私に勇者の現在地を聞くというアテが外れた以上、雇われだというそこの二人はともかくアスリヤは地道に捜索を続けるしかないのだろう?それに同行させてくれ。少しは役に立てる。手始めに、地上を極力避けてここから出る手伝いをしよう』
それを断る理由は無かった。地上を通らずに済みニタのギフトがあるとはいえ、俺達だけでは地下道の踏破は時間がかかるだろう。そうして双方の利を元に、俺達は今地下道を歩き帰還を目指している。
「……」
ニタに比べ、復調した筈のアスリヤの口数は少ない。恐らく賢者の回答について考えているんだろう。
ギフトの影響で、勇者は狂った。サフィに対し尊敬のようなものを抱いているらしいアスリヤからすれば、素直には受け入れがたい話だ。
だがアスリヤの視点から見ればそれが正しいと思えるほどに状況が不自然だ。だからこその悩み。
――なら、俺の視点からは?
俺は見ている。アイツが自分を助ける為に集まった兵士達を皆殺しにしようとする様を。
俺は聞いている。アイツの何か遠いモノを見て喋っているような不可解な言動を。
それは、傍から見れば狂ったという答えを後押しする記憶だろう。だが俺にはそうは思えない。それ以前のアイツは変わっていなかった。マイペースで覇気の無い、過去の記憶通りのアイツだった。
……やはり俺は知るべきなのか。いや、知ろうとしたいのか?アイツのことを。
――いい加減、逃げるなよ。
誰かがそう、嘲笑ったような気がした。




