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五十三話 残火 後

 ……私は、彼を救えた筈なんだよ。守られる存在であり遠距離からの攻撃手段を持つ私は後方に陣取っていた。だからその彼が、魔王から致命的な攻撃を貰う瞬間を誰よりもハッキリと見ていた。


 救えた筈だった。私が守る意志を持って攻撃をそこに差し込めば。だが実際にはそうしなかった。


 ()だったんだよ。彼が攻撃を受ける瞬間の魔王は、攻撃を叩きこむのに絶好の状態だった。


 彼の命と魔王への攻撃。その瞬間の私が選んだのは後者だった。その攻撃が起点となって魔王を追い込めた。でも彼は死んだ。


 ――だがな、有り得ないんだよ。私がそんな選択をするなんて。




 ☆




「分かるか?あの瞬間の私は、彼の命よりも魔王討伐という使命を優先した。おかしいんだ。そんなのは。確かにあの時の私は魔王討伐に重責を感じていた。何がなんでもあの戦いで討伐を果たす気でいた。だが私が彼を見殺しにする筈がない。ないんだ。思考を誘導でもされてなければ」


 空虚な表情と声。しかしそう語る賢者には形容しがたい重み――執着のようなものがあった。


 俺もアスリヤも、ただ黙って賢者の話を聞いていた。


「これが、私が【交信】に思考誘導の作用があると思い立ったキッカケだ。それから私は今日に至るまでそれを証明する為に生き永らえ、こんな場所で調査を続けている。だがお前達の話で確信に近づいた。私は、正しかったと」


 火が散る音、そして外から微かに聞こえる風音だけがその場に残る中、賢者が再び口を開く。


「彼は幼馴染だった。姿の変わらない私を受け入れてくれた。将来を約束してくれた。それを示す為に、私を守る為に、勇者一行に選ばれるほどの努力を積み上げた」


 そして、残火のように呟いた。


「彼は、私の婚約者だった」

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