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五十話 【交信】

「……え?」


 アスリヤは完全に面食らっていた。その反応を前にして、さして気にするわけでもなく賢者は話を続ける。


「勇者にはその証として二つの特別なギフトが追加で授けられる。お前達もそれくらいは知ってるだろう?【浄化】と【交信】だ。その内、前者は魔王を完全に倒しきる為のモノだが、ここで重要なのは後者の方だ。【交信】……()とのやり取りを可能にするギフト。ではなぜこんなものが授けられる?」


「……ってください」


「これまでの勇者はそれを()()としてきた。勇者としての自覚を抱かせ、使命に疑問や不安を抱いた時、【交信】を使い神に問えばそれを解消できる」


「待ってください」


「だが【交信】の果てに返ってくるのは、とても曖昧で抽象的な()だけだ。具体的な方法論や解決策を示すことはない。それこそ、私のような相手に助言を求めて来る勇者がその証拠だ。【交信】は助言者としては大して役に立たない。そう考えれば、魔王を倒すのに絶対に必要な【浄化】と比べれば存在価値が薄いギフトだ」


 静止を求める声にも応じず、せき止めていた流れが溢れ出るかのように、賢者の回答は続く。


「では、なぜ?その答えはシンプルだ。()()()()()()()()()()()()()()()()。それが二つのギフトの片割れ、【交信】の正体。……思ったことは無いか?()()()()()()()()()()()()()()()、と。魔王討伐など望まず、混沌を良しとするような人間が勇者になった場合、もしくは元々は善良だったが勇者になった後に悪人になった場合。【交信】はそんな事態を防ぐ為のギフトだ。保持者を勇者として働かせる為の思考誘導。洗脳と言ってもいいかもしれないな」


 アスリヤは諦めたのか静止を止めた。俺は口を挟まずに静かに話を咀嚼する。そして、賢者が示した回答は。


「【交信】が人間の思考や人格に影響を及ぼすとすれば、ある一つの可能性が生まれる。()()()だ。魔王討伐を拒む者を勇者に相応しい思考へと誘導、その過程で不具合が生じる。有り得ると思わないか。実際、その手の似たような作用があるギフトを持つ者が、それに振り回されるという例を私は何度か見た。有り得ない、とは断言できない」


「……つまり貴女は」


「ああ。その勇者は【交信】の影響で狂い、姿を消した。周りで死んでいたという兵士はそれに巻き込まれたのだろう。謎の魔物と殺された勇者一行については微妙だが、関係していてもおかしくない」


「有り得ません……!勇者様はずっと、魔王討伐に意欲的でした!様子がおかしかった時なんて一度も無い!仮にそんな不具合が存在するとしても、勇者様にそれが起こる筈が……」


「その意欲が、最初から【交信】によって誘導されたモノだとしたら?」


「……」


「元は魔王討伐に消極的であり、お前に見せていた姿はギフトによって無理に誘導された姿。お前はそれを否定できるのか?他人が腹の内で実際には何を考えているかなんて分かりようはない。様子がおかしい時は無かったというのも、姿を消した時が初めて不具合が外に露見する形で生じたタイミングだったと考えればいい。外には見せないだけで、内心では本来の思考と相反する誘導に苦しんでいたかもしれん」


「……!貴方の語る可能性はただ否定はできないだけで、それが真であるという証拠はどこにもない!大体、【交信】にそんな作用があるなんて話は聞いたことがありません!それを貴方は、()()()()()()()()()()()()()()()()、に……」


 そこで言い淀み、何かに気づいたようなアスリヤの表情を見て、俺も遅れてその可能性に行き着く。コイツは恐らく何百年に渡って生き続けている人間。なら、有り得ると。


 そして、そんな俺達を賢者は変わらない調子で肯定する。


「まるでじゃない。……私は、元勇者だ」

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