四十九話 結論
「そう、ですか」
賢者の宣言に対しアスリヤは少なからず落胆の念を抱いているようだった。超常的な存在ではなく、永雪域に留まっているという賢者が外で起きた出来事について知っている筈はない。アスリヤが期待していたような情報は出てこないだろう。
賭けは失敗に終わった。だが、アスリヤはまだ諦めていないようだった。
「――それでも、貴女が常人よりも博識であるのは確かな筈。どうか私達が今抱えている問題について相談させてくれませんか?助言というより、共に考えていただきたいです」
「……まあ構わない。だがあまりにも長いようなら途中で切り上げる。勘違いしてほしくないが、私はお前達のような存在を歓迎しているわけじゃない。過去に助言したヤツらもさっさと帰らせる為にしたに過ぎないんだからな」
「そ、そうなのですか?」
「ああ。その度にもう来るなと言い添えた筈なんだが。意味はなかったようだな」
アスリヤが気まずそうに沈黙する中、俺は内心で納得していた。公的な記録があるとはいえ賢者自身の情報が少ない理由はこれであり、そこからアスリヤを賭けに出させた万能の助言者という偶像が生まれた、ということなのだろう。
「さあ、気が変わらない内に早くしろ。……私には、やるべきことがあるんだ」
☆
「……」
賢者は深く沈黙していた。アスリヤのこれまでの話を聞いてからずっとこうだ。
勇者の失踪、謎の魔物の出現、勇者一行の死。話したのは全てだった。
やがて、長い沈黙が開ける。俯き続ける賢者の表情は微かに口を歪ませているように見える。
「やはり、やはりだ。私は正しかった」
「賢者殿?」
「ん、ああ、すまない。アスリヤ、だったな」
「はい」
「感謝する。お前が齎した情報は、私にとって必要だったモノだ」
さっきのやり取りから一変して、賢者は感情を滲ませていた。そこにあるのは……歓びだった。
コイツは出会った時から一貫して俺達を面倒に思う感情を隠していなかった。どこか人間味が欠落したような、虚無が漂う煩わしさ。それが無くなり、その姿に相応しい子供のような笑みを浮かべている。
「あの、そう言われても意味が……」
「そうだな。では結論から言おう。――今代の勇者、そのサフィとやらは狂ったんだ」




